今月のKEY PERSON

<2019年2月号>丸紅 ヤンゴン支店 支店長 根岸邦夫 氏

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ティラワSEZやインフラ関連のODA案件、さらにはスラグ肥料販売など、この地で多岐に渡る事業を展開している総合商社・丸紅。
1942年からミャンマーで事業を開始し、今もなお多大な貢献を続ける同社の根岸支店長に、今後の事業プランを聞いた。

政府が支援する事業で多数実績 電力、インフラ等で大きく貢献

インフラ・国内消費
輸出ビジネスの推進

 ときは江戸時代にあたる1858年、伊藤忠兵衛が麻布の「持下り」行商を起源とする大手総合商社・丸紅。1949年、現在の丸紅株式会社が設立され、三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事と並び、五大商社の一角として、今もその大きな存在感を放っている。特に電力や農業資材において強みを持ち、長年に渡り世界中でジャパンクオリティを体現し、その名を知らしめてきた。

 ミャンマーにおいては、前身である三興株式会社が、1942年にラングーン事務所を開設。60年、バルーチャン2水力発電所を建設し、軍事政権の影響から一度は撤退したものの、再びこの地に戻るとミャナウン火力発電所建設、ディーゼル機関車納入、セメント工場鉄道の電化、銅製錬工場の建設など、大型プロジェクトを数々手がけてきた。「丸紅の電力部隊は日本でもトップクラス。バルーチャン2水力発電所建設は、丸紅にとっても初の海外電力案件だったので、電力部隊のミャンマー市場に対する思い入れは今でも強いです。これまでミャンマーでは10件以上の発電案件を手がけました」と話すのは、丸紅ヤンゴン支店長とミャンマー日本商工会議所(JCCM)の会頭も務める根岸支店長。

 現在、注力する事業が下記の4分野。1つ目は「ミャンマー国内インフラの整備」であり、日本が官民挙げて推し進めるティラワ経済特区(SEZ)への参画。本誌でも既報だが、ゾーンAはほぼ完売、ゾーンBも販売好調で、2018年12月末段階で14社の入居が決定。そして、第三期工事がまもなく着手される予定で、こちらも日本から熱い視線が注がれるミャンマーの一大製造業エリアである。

 加えて電力・鉄道などインフラ関連のODA案件。前述した通り、同社ではすでに数々の発電案件の実績があり、現在ヤンゴン都市圏上水整備事業フェーズ1、タケタガス複合火力発電所の改修工事、ヤンゴン・マンダレー間鉄道近代化フェーズ1・車両パッケージを契約履行中であり、同社の高い経験・ノウハウが余すことなく投入されている。さらにインフラ関連では道路建設資材を輸入。昨年8月に開通したばかりの新タケタ橋では同社が提供する製鋼スラグ材を使用した。「日本のスラグはクオリティが高く、安定的な道路を造ることができます。車に乗っていても、スラグを入れたところと入れてないところでは、明らかに違いがあります」。

 2つ目は「国内中間所得層増大への対応」とし、印刷用紙、穀物、食品、化学品の輸入を拡大中。「現在の市場規模はまだ小さいが、潜在的な成長力は非常に大きいと確信しています」

 3つ目は「輸出ビジネス」。根岸氏いわく「貿易収支が赤字のミャンマーにとって、天然ガスに次ぐ輸出産品を創出することが中長期的な安定に欠かせない」とのことで、衣料の委託加工、銅地金及び冷凍加工海老の輸出などを進めている。

農業分野にも大きく貢献
高い品質が日系企業の原点

 4つ目は「農業効率の改善」であり、製鋼スラグを使ったスラグ肥料の製造販売を、ティラワSEZに工場を構えるMMF(MarubeniMyanmar Fertilizer)が主体となって事業を進めている。ミャンマーでは雨季の長雨により土壌からミネラルが流れてしまうため、スラグ肥料による補完効果は大きい。使用した圃場では明らかに収穫量やサイズに違いが現れ、各地の農家から好評を得ている。「MMFでは社員が自ら各地方の農村部に赴き、その使い方を指導しています。ミャンマーでは肥料の消費量はまだまだ少なく、施肥体系を改善していけば生産効率向上の余地は十分にあります」。現在は主にコメや豆、トウモロコシが対象だが、その他の作物にも効果があることが実証されてきている。また、新たな肥料の導入に向けての実証試験も推進し、農業資材を通じてのミャンマーへの貢献と業容の拡大を目指す。

 昨年、就任したJCCMの会頭としては次のように語る。「ラカイン問題を解決するには経済発展は欠かせません。今後もミャンマーへの日系企業進出を支援していきます。日本とミャンマーは特別な関係であり、一層の関係強化に努めていきたい」。

 ミャンマーの経済成長及び日本のプレセンスを高めることが日系企業に課された責務であり、将来的には進出が相次ぐ中国企業との競争も避けられないが、根岸支店長は「ミャンマーの方々より信頼を得るには、ジャパンクオリティを維持することに尽きます。それが日系企業の原点なんです。日本は官民が協力してミャンマーの成長をハード・ソフトの両面から支援しており、他国に比べて優位性はあります」と胸を張る。

 この地で長年に渡り、貢献を続けてきた丸紅。インフラから製造業、農業などあらゆる分野において、今後も同社に対する期待は大きい。

根岸 邦夫 [Negishi Kunio]

Profile
1966年、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、89年丸紅入社。産業プラント部に配属となり、セメントプラントやエネルギー・化学プラントに携わる。海外初駐在は95年のインドネシア。その後、東京本社勤務を経て、2010年からカザフスタン共和国アスタナ出張所長。17年プラント・プロジェクト部長に。18年4月からヤンゴン支店長となり、現職とともにミャンマー日本商工会議所の会頭を務める。