今月のKEY PERSON

<2018年11月号>アルプス技研 代表取締役社長 今村 篤 氏

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Key Person アルプス技研 今村篤 代表取締役社長

高いスキルを持つエンジニアを、ものづくりの上流工程に特化し高度技術サービスを提供、企業の成長を支えてきたアルプス技研。
ミャンマーでは独自の学校を開校し、技術、介護、農業分野の人材育成を行う。
「将来を担う人材への教育機会を提供したい」と語る今村社長に今後の展望を聞いた。

技術・介護・農業分野の人材を育成 日本とミャンマーの経済成長に貢献

ものづくり現場を支える高い教育システムが強み

 1968年、松井設計事務所として創業以来、ものづくりの上流工程に特化し、高度技術サービスをメイン事業としてきたアルプス技研。機械、電気・電子、ソフト、化学など各分野に精通した一流のエンジニアを企業に送り、製造業の大手メーカーを中心に約700社の開発・設計工程をサポートしてきた。その業種は多岐に渡り、自動車、ロボット、航空機、宇宙機器、船舶、デジタル家電、精密機器、通信機器、半導体、産業用機器、医療機器、インフラなど。複数人数によるチーム派遣をはじめ、設計・試作・製造・評価を単独または一括で行うプロジェクト受託、スポット派遣まで、顧客のあらゆるニーズに応じたサービスでものづくり現場に貢献してきた。

 エンジニアは技術的な知識の習得は当然のこと、OJTによる実践力、現場対応力を培い、ビジネスマナーや協調性、ロジカルシンキングといった人間力の育成にも力を注ぐ。また、エンジニア自身が主催する「勉強会」や「ロボットコンテスト」、「新入社員の技術成果発表会」など、多くの学びの場を用意し、ヒューマンスキルと技術スキルを兼ね備えた人材を育ててきた。その数は、アルプス技研だけで約3,500人のエンジニアを抱える。グループ会社5社を含めると約4,200人のエンジニアが国内外にて活躍している。

 初の海外進出は1988年の台湾。また、2005年から中国人技術者の育成を本格始動し、これまでに中国、ベトナムで10年以上に渡り、延べ約400名のグローバルエンジニアを育成し、正社員として採用。約200社の顧客実績を持っている。15ヵ月計2000時間という長期的な育成プランにより、技術スキルだけではなく、日本語、日系企業の商習慣の理解を促し、即戦力の高いスキル人材を取り揃えてきた。

 ミャンマーとの関わりは、1996年までさかのぼる。当時、創業者である松井利夫取締役会長が来緬した際、ミャンマー人のホスピタリティの高さ、真面目さに感銘を受け、人材育成を決意。しかし、当時の軍事政権下では、なかなか事業が認められず、ようやく許可が下りたのは2003年。創業者の松井利夫取締役会長が私財を投じ、IT技術者養成コースをまずはスタートした。ITのオフショアの流れがASEANにも広まり、ミャンマーでIT人材が枯渇していたという背景もあって、3年間に渡り約400名の人材を育成。その実績を高く評価した政府は、翌年04年に介護人材の育成も許可。介護人材の募集はわずか12名が対象ながら、約300名が応募してきたというから、同社に対する期待度の高さがうかがえるだろう。しかし、政府の許可もむなしく、当時の日本では介護人材の受け入れが厳しく、卒業生の数名は国際業務の担当者として同社に入社。今ではミャンマー事業の中核メンバーとして活躍するまでになった。

ミャンマーに学校を開校
60名規模からスタート

 15年、少子化が避けられない日本国内では徐々に法改正が叫ばれ、一方ミャンマーの民主化が進むと、同社はヤンゴン支店を開設。技術、介護に農業分野を加えた3本柱を育成事業の柱と位置付け、日本の最前線で経験を積んできたミャンマー人講師が指導し、着実に成長を重ねてきた。「介護、農業分野において、日本が人材不足になるのは必至。法改正も進むため、状況はよくなると考えています」と話すのは日本本社の今村社長。すでに農業分野で約20名、介護実習生約20名の育成が完了し、日本への出発を待っている。

 さらに同社では事業拡大のため、ミャンマーにおいて人材育成事業の活動を行っているNPO法人メコン総合研究所へ寄付を実施。今年9月にヤンゴン市内のサウスオッカラパに同NPO法人が運営母体となる「アルプス技研高等職業訓練大学校(ALPS GIKEN High GradeVocational Training Institute)」を開校した。高校卒業以上で30歳以下、日本での就業を目指すミャンマー人が対象で、日本語や専門教育を施す。「3分野で1年コースをまずは60名規模から開始します。翌年以降は日本語プラス専門知識といった2年コースも予定。ゆくゆくは120人ほどまで増やしたい。そして、一定水準に達した人材は、弊社で採用し、日本の現場に派遣したい」と今村社長。

 今年で50周年を迎えた同社では、今後の事業を第二創業期と位置付け、さらなる拡大を目指す。その一つが、前述した介護や農業分野であり、すでに日本で子会社の「株式会社アグリ&ケア」を今年4月に設立、派遣先の営業を行うなど万全の体制を整えた。今村社長はこれらが同社の主要な事業に成長すると期待し、「アルプス技研のひとつの柱にしたい」と意気込む。

 「日本とミャンマーは互いにかけがえのない存在であり、ミャンマーは大変有望な国だと考えています。弊社が長年培った経験や技術などの教育ノウハウをミャンマーの方々に伝えることで、ミャンマーと日本の両国に貢献したい。将来ミャンマーを背負って立つ人材に対して、教育機会を提供し活躍いただきたいですね」。
 

▼グループ会社含め約4,200人ものエンジニアを抱える同社の最大の強みが人材。
2018年10月、グローバル社員入社式にて新入社員に言葉を贈る今村社長

今村 篤 [Imamura Atsushi]

Profile
1969年生まれ、山梨県出身。日本工学院専門学校卒業後、90年アルプス技研に入社。半導体製造装置メーカーで開発に関わるなど、技術者を14年務めた後、本社教育部門に異動。技術教育の講師を務め、また同社初となる「ロボットコンテスト」の立ち上げに携わるなど、多くの新規育成プランを実現してきた。2009年東海事業部長、13年業務執行役員、14年取締役を経て、15年代表取締役社長に就任、現在に至る。