今月のKEY PERSON

<2018年10月号>豊田通商アジアパシフィックヤンゴン支店 支店長 市橋卓也 氏

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自動車分野を中心に、金属、部品物流、インフラ、化学品、食料など幅広く事業を展開するトヨタグループの豊田通商。トヨタ車の初のアジア向け輸出先が、ミャンマーだったことはあまり知られていないが、この地との結びつきは想像以上に強い。
同社ヤンゴン支店の市橋支店長に、当地での歴史や今後の展望などを語ってもらった。

次々と企業が撤退するなか事業を続けたTTAS社

 自動車分野をメインに金属、部品物流、機械、エネルギー、プラント、化学品、食料、保険などを取り扱う、日本を代表する総合商社・豊田通商。1948年、同社の前身となる豐田産業(旧トヨタ金融株式会社)の商事部門を継承し、「日新通商株式会社」を設立。トヨタグループの商社として、完成車の輸出などを通じ事業を成長させ、名古屋・東京両証券取引所への株式上場を果たす。トヨタグループ各社は国内からの輸出のみならず、世界各国でも生産を開始。これにともない同社は、海外に販売拠点を相次いで設立し、パキスタンでトヨタ車を生産するなど、トヨタグループのグローバル化とともに海外進出を加速させた。87年、社名を現在の豊田通商に変更。2000年、ゴムや化成品、紙・パルプ、食品などを扱う加商と合併し、06年には化学品、繊維、エレクトロニクス、機械・エネルギーを得意とし、幅広い顧客を持つトーメンと合併、現在の事業基盤が完成した。相次ぐ合併により、自動車以外の分野へと本格的に進出し、バリューチェーンの大幅な拡大を進めている。

 ミャンマー進出は1996年(旧トーメンとしては1942年、旧加商としては95年)。現地代理店のAye & Sons社とともにTTAS社(通称・Toyota Aye & Sons)を設立。ちなみにAye &Sons社は、56年に戦後賠償として、トヨタ初のアジア向け輸出となるランドクルーザー22台を納入した経歴を持つ信頼度の高い地場企業。97年、アジア通貨危機を発端とした外貨不足による在庫車両販売禁止を受け、大手自動車企業が次々と撤退するなか、TTAS社のみがトヨタの正規店として修理・サービスを担ってきた。欧米の経済制裁で自動車輸入が制限されるなど、耐え忍ぶ時期がしばらく続いたが、14年にようやく規制緩和が進み、新車販売が可能となる。18年現在では、新車・部品販売、サービス事業を軸に、板金塗装、部品の卸販売、物流、トレーニングセンター、オークションなど自動車に関連するあらゆる事業を手がけ、ミャンマーでの同社売り上げの約4割を占めるほどに成長した。

新車販売は好調の一途
目標数字を上方修正

 この国の自動車の98%が未だ中古車であり、そのうちの実に7割、約50万台がトヨタ製(TTAS社推定)。今年、右ハンドルの中古車輸入が禁止されたこともあり、タイやインドネシアなどで生産された左ハンドルの新車販売が好調。AEC域内での関税が免除という追い風を受け、TTAS社の販売台数は右肩上がりとなっている。さらに各地場銀行が提供する自動車購入向けローンが一般普及し、今年当初の販売目標の年間800台のセールスは、すでに1200台に上方修正するなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。中古車のオークションアプリをローンチし、Facebookには20万人のフォロワーが付くなど、時代のニーズに則したプロモーションでますます知名度を高めた。豊田通商がASEANで市場を席巻するタクシー配車アプリ・Grabにも出資するなど、自動車関連の新規ビジネスはまだまだ余力を残している。「自動車関連では、エアバッグをこの地で委託加工し、5ヵ国に輸出。ウォッシャータンクに付随する部品も委託加工し、輸出しています」と語るのは、ヤンゴンで舵取りを任される市橋支店長。

 自動車関連以外の事業では、プラスチックや洗剤に使われる化学品、日本でのシェアNo.1の豆(もやし/あんこ原料)などの食料品、そしてODA事業の電力やエネルギーにも触手をのばしている。「インフラでは電力、港湾の運営にも着手していきたい。これまでODAで実績を積んできましたが、今後は運営もやれればと考えています。食料の輸出は、できれば原材料に加工を加えていくことで付加価値を出したい。また、ミャンマーは金属資源が多く眠っているため、輸出を現在検討中です。着目しているのは銅。東南アジアに銅線の工場を持っていますので、安定した需要があり、それを見込んで長期的な安定供給につながると考えています」。

 続けて、市橋支店長は「アジア最初のトヨタ車の海外輸出先として選定されたミャンマーは注目度が高い」と語り、自動車関連の事業においては「トヨタブランドを生かすためにも、さらなる付加価値を提供してミャンマーに貢献していきたい」と期待を込める。「個人的にも、最初の駐在時にミャンマーの皆さまに支えられ、生かされ、育てられて、今の自分がありますので今後も事業を通じて恩返しをしたい」と熱く語る市橋支店長。

 自動車関連事業をメインに、あらゆる事業領域への挑戦を掲げる同社。今後もその幅広いビジネスに注視せざるを得ない。

市橋 卓也[Ichihashi Takuya]

Profile
1962年生まれ、東京都出身。筑波大学農学部卒業後、86年加商(現・豊田通商)に入社。2000年、食料部門に配属。90年にアメリカ駐在、95年に一度目のミャンマー駐在となる。日本帰国後、海外事業部などを経て、カザフスタン、ロシアなどを担当。2016年3月から二度目のミャンマー駐在でヤンゴン支店長を務める