【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2016年9月号>ミャンマー税関局 局長 チョー・ティン 氏

今回のテーマ革進するミャンマー税関

税関業務は国の経済に対して極めて重要
ミャンマー発展のために全力を尽くす

チョー・ティン 氏[Kyaw Htin]

ミャンマー税関局 局長
1964年、ヤンゴン生まれ。1981年から85年、国軍士官学校。1985年、空軍に入隊。2011年から2年間、防衛大学。2013年、准将、パテインの空軍基地司令官。2016年3月からミャンマー税関局局長となる。

今秋導入予定のMACCS
原型は日本の電子通関システム

永杉 本日はご多忙の折り、お時間を賜りありがとうございます。早速ですが、現在のミャンマーにおける輸入品目の中で、金額が大きい物品にはどのようなものがあるのでしょうか。

チョー・ティン 輸入品目の中で一番金額が大きいものは機械で約25億ドルです。続いて自動車約13億ドル、鋼材約12億ドル、ディーゼル油約8億ドル、ヤシ油約5億ドル、通信機器とガソリン約4億ドル、セメント、プラスチック樹脂、医薬品の約2億ドルが上位10品目となります。

永杉 過去さまざまな問題が指摘されてきましたが、現在税関として特に力を入れていることを教えてください。

チョー・ティン 日本の無償資金協力や技術協力による全面的な支援で、今秋の「MACCS(マックス)」と呼ばれるシステムの運用開始に向け準備を進めています。正式にはMyanmar Automated Cargo Clearance System という電子通関システムを指します。今まで通関手続きはマニュアルで行われていました。しかしそれらを電子化することで、従来は申告から許可までが早くても3日程度かかっていたものが、税関の審査や検査が省略されるグリーンチャンネルでは最短で数秒に短縮できるようになります。
また、現在ミャンマーの関税率表は2012年度版世界共通の関税率表に基づいていますが、各国の税関制度の調和・統一を推進している世界税関機関(WCO)の指導により、2017年度版の作成準備をしています。 アセアン関連では、アセアン経済共同体(AEC)下で関税を撤廃する2018年に向けて作業を進めています。また、アセアンと他の主要な貿易相手国である中国、インド、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドから輸入した場合、それぞれ経済連携協定による関税の引き下げを進めています。

永杉 つまり今までの通関業務とは全く異なり、今後革新的な通関システムになるのですね。日本の支援によって導入されたというMACCSですが、導入に至った経緯をお聞かせいただけますか。

チョー・ティン アセアン経済共同体(AEC)の発足に伴い、アセアン各国間のつながりとして計画されているアセアン・シングル・ウィンドウ(ASW) の構築に協力することが求められています。これには貿易取引の簡略化を目指し、一回のデータ入力・送信で諸手続きを完了させるナショナル・シングル・ウィンドウの構築が必要です。このシステム開発を募ったところ、ローカル企業と外資企業合わせて8社から提案がありました。検討の結果、日本政府の無償資金協力で実行されるMACCSを選びました。元になる日本のNACCS(Nippon AutomatedCargo and Port Consolidated System)は1978年から使われており、現在申告の98% を24時間の稼働でカバーしているということです。

4月から利用者登録開始
他省庁を含む11業種

永杉 4月から通関業者や船会社などのMACCS利用者登録が始まったとお聞きしておりますが、現在の登録状況はいかがでしょうか。また、どのような業種が何社ぐらい登録済みなのでしょうか。

チョー・ティン 2016年4月1日から、MACCS利用者登録をはじめるとともに、輸出入者コード(Importer Exporter Code)を提供しました。業種は11種類で、通関業者、輸出入業者、非船舶運航業者(NVOCC)、航空貨物会社、運送業者、倉庫、コンテナヤード、航空会社、運送会社、運送代理店、他省庁(OtherGovernment Agencies) です。他省庁を一つの業種としたのは、税関業務の一部の分野、例えば医薬、食物、植物、家畜などで他省庁から許認可が必要だからです。6月末までに税関で利用者登録をした人数は、通関業者729人、国内輸出入業者796人などです。

永杉 ご苦労があったと思いますが、登録募集にあたり何か問題はありましたでしょうか。

チョー・ティン 登録募集はウェブサイト、ミャンマー通関業会(MCBA)、公開説明会、国内メディアなどを通して開始日や登録時の注意点などを告知しました。ところが水祭りの長期休暇や会社側の準備不足、登録期間がまだ十分あるなどの理由で、当初は登録者は少なかったのです。しかし6月末までに他省庁や通関業者についてはほぼ登録が終わりました。

当初は空路、海路から
将来的には陸路にも導入

永杉 MACCSの導入により、今までと大きな違いを端的にご説明頂けますか。

チョー・ティン 現在、税関では手続きを簡易な電子システム(E-customs)でも行っています。しかし国内IT 企業が開発したシステムで、予算も限られていたので効果は十分ではありませんでした。MACCSは日本で実際に導入しているNACCS をもとにしてミャンマー税関の現行法律に従ってカスタマイズしており、開発技術も導入効果も全く異なります。例えば、輸出入手続きを大幅に短縮できる、税金の支払いも電子通関システムで簡単に出来るなど、通関手続きを最新の国際水準にできる点で威力を発揮します。

永杉 導入はまず空路、海路から始められるとお聞きしております。今後、違法な輸入が非常に多いとされる国境などの陸路でも導入されるのでしょうか。またそれはいつ頃の予定ですか。

チョー・ティン 2016年11月にMACCSをティラワ経済特別区(SEZ)を含むヤンゴンエリアで最初に導入する予定です。ミャンマーの貿易量は、空路および海路が約80%、陸路が約20% です。MACCSをヤンゴンエリア内に導入後、安定的に稼働し、また貿易円滑化につながれば、2018年以後陸路でも導入していく予定です。

8月からテスト開始
JICAなどが支援

永杉 MACCSは8月からテスト開始と伺っておりますが、予定通り今秋に本格導入はできるのでしょうか。インフラが開発途上のミャンマーでは一抹の不安があります。

チョー・ティン MACCSの総合運転試験を今年の8月から10月にかけて行う予定です。すでにMACCS利用者を対象に、5月、6月にかけて通関業者、他省庁、経済特別区(SEZ)、ミャンマー国際貨物利用運送協会(MIFFA)から参加した合計919人に対して8講義にわけて研修を行いました。また税関の職員約100人を対象に、7月11日から23日まで講義を行いました。さらに、システムの運転試験を始められるように電子通関マニュアルの作成などを準備しています。ミャンマー、日本両国の税関メンバーの協力、国際協力機構(JICA)長期専門家の支援により、予定通り11月にシステムは稼働できると思います。

永杉 税関は国が経済発展する上でとても重要な機関です。局長はミャンマーの税関を、今後どのように改革していきたいとお考えですか。

チョー・ティン ご指摘の通り、税関業務は国の経済に対して極めて重要な役割を担っており、これからも厳しく対処していかなければならないと考えています。MACCS導入などで国際的な水準を目指し、ミャンマーの発展のために全力を尽くしていきます。

永杉 今後革新されるミャンマーの通関システムに期待したいと思います。チョー・ティン局長ならびにミャンマー税関の今後ますますのご活躍をお祈りしております。

永杉 豊[NAGASUGI YUTAKA]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
MYANMAR JAPON および英語・緬語情報誌MYANMAR JAPON +plus 発行人。日緬ビジネスに精通する経済ジャーナリストとして、ミャンマー政府の主要閣僚や来緬した日本の政府要人などと誌面で対談している。独自取材による多彩な情報を多視点で俯瞰、ミャンマーのビジネス支援や投資アドバイスも務める。ヤンゴン和僑会代表、一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員。