【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2015年7月号>ヤンゴン経済大学学長 キン・ナイン・ウー 氏

今回のテーマ:需要が増す人材育成にどう取り組むか

ヤンゴン経済大学学長
1958年、ミャンマー・パテイン生まれ。1978年にヤンゴン経済大の前身となるヤンゴン・インスティチュート・オブ・エコノミクスを卒業、商学を学ぶ。2007 年、同大で博士号を取得。34年以上にわたり、同大などで教鞭をとる。専門は商学、経営学。中小企業論や地域開発論などの研究が多い。2013年から現職。

1995 年にMBAコースを開設

永杉 本日はお忙しいところ貴重なお時間を頂きありがとうございます。ヤンゴン経済大学は、首相や大臣、そして著名なビジネスマン等多数の優れた人材を輩出している名門大学とお聞きしております。弊社の関連会社に人材紹介事業もありますが、優秀なミャンマー人への求人はひっきりなしです。その中で、ビジネス人材の育成で中心的な役割を果たすヤンゴン経済大学の取り組みをぜひお聞きしたいと思います。

キン 本学は古くからビジネス人材の育成に取り組んできました。1995年には経営管理学修士(MBA)のコースを設けています。当時は社会主義経済から市場経済に移行する時期で、多くのビジネス人材が必要となっていたという経緯があります。2000年には、エグゼクティブMBA プログラムを設け、35 歳くらいの実務経験のある高いレベルの経営人材の育成を始めました。オンラインMBA もあります。また開発分野にも力をいれており、公務員らを養成する公共経営修士(MPA)や、NGO などで仕事をするための開発学の修士課程も設置しています。2012年から、銀行や金融を学ぶ修士課程を設けました。
日本のメガバンクも奨学金 大学や企業と提携進める

永杉 ミャンマーでは先駆的な取り組みを続けてきたのですね。日本を含め、海外の大学や企業とも積極的に連携していると聞いています。

キン 日本の神戸大学や立命館大学のほか、帝京大学などとも協力関係があります。今年に入り、帝京大学と覚書を結び、学部生2人が全額奨学金を受け帝京大学に2年間留学することになりました。
また企業では、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱東京UFJ 銀行、イオン1%クラブなどから奨学金をいただいています。両親がいない学生や兄弟が多い学生の力になっているほか、優秀な学生を支援していただいています。こうした援助は、日本企業が企業の社会的責任(CSR)として行っていますが、ミャンマーの若い世代が日本の企業風土を知ることによるメリットもあるでしょう。シンガポールやベトナムの銀行、企業からも援助があります。ただ、こうした支援が今後も続くかどうかわかりませんので、その点が課題です。
高度人材育成へ企業がカリキュラム提供

永杉 会計やマーケティングなどの分野で人材不足が指摘されています。優秀な人材に対する求人はとても多いのですが、率直に申し上げますとミャンマーの人材は海外企業が求めるレベルとは大きな差があります。

キン とても重要なポイントです。高度な人材を育成するため、カリキュラムの面でも外国の企業から協力を得ています。例えばみずほ銀行は奨学金だけでなく、年間8 回の講義を通じ銀行や証券取引の実務について教えてくれています。生徒のレベルを上げるためには教員のレベルアップも重要ですので、教員育成のために海外の大学とも連携しています。

永杉 教育者として、最近の若者をどう感じていますか。

キン 最近の学生はとても知識を得ることに積極的です。過去40 年間、ミャンマー人には海外で学ぶ機会などなかったのですが、2011年の民政移管で海外との協力関係ができてチャンスが開けました。
認められれば頑張る従業員

永杉 若い人材が育ってくれば、ミャンマー経済の将来は明るいですね。私は、ミャンマー経済については楽観的な見方をしているほうなのですが、先生はいかがですか。

キン 政治的な安定が重要でしょう。国民が協力して国を安定させなくてはいけません。そして人材の質も重要です。また、さらなる発展のためには規制緩和も必要でしょうね。

経済発展には人材がカギ 外国企業と連携して“実学”教育

永杉 先生は経営学がご専門とのことですが、ミャンマーの企業と外国企業との経営の違いをどのように考えますか。また、海外からの進出企業はミャンマーで活動する際に、どういったことに注意しなくてはならないでしょうか。

キン ミャンマーの経営スタイルはとても伝統的で、文化や宗教に基づいています。従業員は課長や部長ら上司を尊敬し、指示をよく聞きます。「できるか」と聞かれれば、常にYES と答えます。その結果、中央集権的な経営スタイルになります。欧米の経営とは大きく異なりますね。
外国企業がミャンマーでうまく経営をするためには、ミャンマー人従業員の頑張りをしっかりと把握、評価してほめてあげることが大切です。そうすると、彼らは心から喜び、一生懸命仕事をするでしょう。

永杉 本日はありがとうございました。さきほどのお話の通り、国の発展には人材がカギだと思います。ミャンマーにおいて、今後もヤンゴン経済大学の役割はますます大きくなることでしょう。ご活躍をお祈りしています。

ビジネス人材の育成急務

ヤンゴン経済大学は英領インド統治下の1924年、ラングーン大学(現ヤンゴン大学)の一学部として設立された。1964年に当時の教育改革の流れでヤンゴン・インスティチュート・オブ・エコノミクスとして独立、1995 年にMBA、1998 年には博士課程を設けるなど1990年代からビジネス人材の育成に注力した。2014 年に教育改革の一環として、現在のヤンゴン経済大学に組織変更した。
ミャンマーのビジネス分野の人材は、対外開放と急速な海外企業の進出で深刻な人材難に陥っている。大企業での勤務経験を持つ人は一握りで、企業の経営層には海外からの帰国組が多い。中でも、複式簿記など国際的に通用する経理処理や、組織的なマネジメントを行うことのできる人材が不足しており、実践的な教育カリキュラムで、ビジネス人材を育成することが急務となっている。

MYANMAR JAPON CO., LTD. 代表
MYANMAR JAPON および英字情報誌MYANMAR JAPON+ plus 発行人。ミャンマービジネスジャーナリストとして、ビジネス・経済分野から文化、芸術まで政府閣僚や官公庁公表資料、独自取材による多彩な情報を多視点で俯瞰、マーケティング・リサーチやビジネスマッチング、ミャンマー法人設立など幅広くミャンマービジネスの進出支援、投資アドバイスを務める。ヤンゴン和僑会代表、一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員。