【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2015年5月号>ミャンマー連邦共和国 商業大臣 Win Myint 氏

今回のテーマ:岐路にあるミャンマー経済をどう見るか

ミャンマー連邦共和国商業大臣
1954年、 ザガイン地方生まれ。2011年に商業大臣に任命されるまでは国会議員を務めていた。経済界のリーダーとして知られ、1999年から2011年までミャンマー商工会議所の会頭を務めた。エネルギー関連企業を経営するほか、サッカーのミャンマー・ナショナル・リーグ(MNL)のザヤシュエメFCのオーナーでもある。日本についても知識が深く、日本の武蔵野大学の客員教授を務めるほか、二松学舎大学からは名誉博士号を授与されている

ミャンマー経済 問題はあるが影響大きくない

永杉 本日は公務のお忙しい中、貴重なお時間を賜りありがとうございます。日本語の情報誌、そして英字版を発行していることにより私のもとにはいろいろな情報が集まってきますが、日本企業はいま、ミャンマーに非常に注目しています。今年、来年とさらに日本企業の投資が増えると思います。

ウィン 2011年に新体制になってから、海外からたくさんの投資が入っています。その中でも、日本が一番多いと言っても過言ではないと思います。また、社会の発展のためにはメディアは重要です。ミャンマーのメディアは、以前は未熟だったのですが、自由化して2年ほどが経過し次第に力をつけています。そのような中でMYANMAR JAPONのインタビューを受ける事は大変喜ばしいことです。

永杉 誠に光栄なお言葉です。ありがとうございます。それでは、質問に移ります。ミャンマーは外資系企業の投資によって、経済成長が著しい一方で、輸出入の不均衡による貿易赤字、またインフレ懸念も持ち上がっているなど、多くの課題があります。ミャンマー経済の現状について、どのようにお考えですか。

ウィン ご指摘の通り、海外直接投資(FDI)が増えています。過去4年間でFDI は170 億ドルに上りました。2014年度には、最大の70 億ドルに達しています。
たしかに、最近のミャンマー経済には不安定な部分があると国際通貨基金(IMF)も指摘しています。IMF は、シャン州北部ラオカイでの紛争、労働者のボイコット、学生のデモなどの問題を挙げ、インフレ率の上昇や経済の減速に直面するだろうと予測しています。しかしほとんどの問題は、すでに関係部門が対処しており、経済成長に大きな影響はないと考えています。

ミャンマー人は日本製品信頼

永杉 巨額の貿易赤字についてはどう考えますか? 貿易赤字は仕方がない、との考え方もあります。なぜなら、国が成長する過程において輸入は必須で、貿易赤字が一時的に拡大することは自明の理だからです。

ウィン その通りだと思います。私は12年間ミャンマー商工会議所の会頭をしていましたが、ミッションで日本をよく訪問しました。また、商業大臣に就任した際に東京や京都を訪れました。私は800 社以上の日本の企業を見ております。日本の経験を、こうした問題解決に生かすこともできると思います。ミャンマーは民政移管してまだ4年、若い政府ですから問題もあります。

永杉 日本企業にとっては、どのような分野での投資が有望と考えますか。また、日本企業の優れた点は何だと思いますか。

ウィン 分野としてはまず、交通や製造業、建築業などが挙げられます。また、ホテルや金融、保険などのサービス分野も有望だと思います。農業もいいでしょう。日本製品の品質は、ほかの国と比べて一番だと思います。輸入自動車の90%が日本製だとされています。カメラなど電気製品も多く輸入されています。日本製品が信頼できると思っているミャンマー人は多いですよ。

永杉 農業もミャンマーにとっては非常に重要な分野ですね。農業分野ではたとえばどのような形の投資が必要でしょうか。

ウィン ミャンマーには土地がたくさんあります。しかし技術がありません。日本の技術が加われば、ミャンマーの農業はもっと発展することができます。成功例としては、ゴマがあります。マグウェ管区では、日本の技術指導を受けてゴマを栽培し、それを日本に輸出するようにしました。その結果、とても良質なゴマが取れるようになりました。野菜や果物もポテンシャリティがあると思います。シャン州と日本は気候が似ているので、日本にある野菜を栽培することができると思います。シャン州でキャベツを栽培して、日本の技術でドライ加工し、日本に輸出している例もあります。ネピドーでも、野菜の乾燥工場ができました。また、日本の大手企業がシャン州やマンダレーで農園の開発のための調査を始めました。

ミャンマー経済 問題はあるが影響大きくない

ティラワ特区は先行している

永杉 ところで、ティラワ経済特区(SEZ)の開発は日本が協力していることもあり、非常に関心が高いプロジェクトです。期待の声が大きい一方で、作業の遅れを心配する声も聞かれます。

ウィン ティラワは、チャウピュ、ダウェーとあわせて3 つのSEZ のうちで、一番先行していると言えます。投資を促進するため、インフラ整備を進めています。海外からの輸入資材には税金が免除され、製造コストが安くすみます。国際ルールを適用し、スムーズにビジネスが進む形にしています。
ティラワSEZ については、ニャン・トゥン副大統領が各部署をまとめる形で陣頭指揮を取り、しっかりと進めています。何かあれば、副大統領が直接指示を出しています。たしかに問題もありますが、解決するために尽力していますので、心配はいりません。

永杉 工場で労働者のストライキが起こっています。賃金の上昇はもちろんよい側面もありますが、ストが経営に影響を与える点も無視できません。

ウィン 問題を解決するために、労働省が指導をしています。最低賃金などを法律で決めています。安価な住宅の建設も計画しています。徐々に問題は解決すると考えます。

永杉 私も問題は解決されると思います。日本でも、40 ~ 50年前には同じような状況でしたが、問題を乗り越えてきました。

ウィン はい、私もそのように思います。ミャンマーは、まだ民主化して4年という若い国ですから。近い将来、問題は解決できます。

政治と経済を一度に改革

永杉 いいことも悪いことも、日本の40年間で起きたことが、ミャンマーでは4年の間で起こっているような気がします。

ウィン ミャンマーでは、政治と経済を同時に改革しているので、このような問題が起こっているのです。ほかの国では、政治と経済を同時にではなく片方をまず改革するという方法を取っていますが、ミャンマーでは同時に改革しようとしています。

永杉 ミャンマーと日本は歴史的に深い縁があります。今後の二国間関係を発展させるためにどうしたらよいと思いますか。また、日本人へのメッセージはありますか。

ウィン 新政府で、日緬関係はより良くなりました。国民も、日本のことがとても好きです。両国のつながりは、今後もっと強くなると思います。日本の方は、ぜひミャンマーにお越しください。商業省も、いつもドアを開けて待っていますので、いつでも相談してください。

永杉 そんなことをおっしゃっても大丈夫ですか? MYANMAR JAPON を読んだ日本のビジネスマンが商業省に押し寄せて、いまよりもっと忙しくなるかも知れませんよ(笑)

ウィン 大丈夫です。ミャンマーの経済発展に尽くすことが私の責任です。いつでも相談に乗りますよ。

経済改革の中核官庁

商業省は貿易の監督や輸出入の促進などを担当する経済官庁。ミャンマー政府が進める経済改革について中核的役割を果たすことが求められている。長らく国軍幹部が大臣を務めてきたが、2011年に経済人で政治家のウィン・ミン氏が抜擢された。
外資系企業からは貿易実務の透明化を求経済改革の中核官庁める声が強く、貿易関連法規の明確化や、ミャンマー語と英語での法令集の作成などに取り組んでいる。また貿易赤字が拡大しているためミャンマーの輸出促進も重要な課題となっている。

MYANMAR JAPON CO., LTD. 代表
MYANMAR JAPON および英字情報誌MYANMAR JAPON+ plus 発行人。ミャンマービジネスジャーナリストとして、ビジネス・経済分野から文化、芸術まで政府閣僚や官公庁公表資料、独自取材による多彩な情報を多視点で俯瞰、マーケティング・リサーチやビジネスマッチング、ミャンマー法人設立など幅広くミャンマービジネスの進出支援、投資アドバイスを務める。ヤンゴン和僑会代表、一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員。