【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2014年9月号>City Mart Holding Managing Director Win Win Tint 氏

今回のテーマ:発展するミャンマー流通業界、ミャンマー最大の小売企業グループの姿

City Mart Holding・Managing Director
1996年からミャンマー流通業を手掛け、現在ミャンマーで急成長を遂げる各種チェーン店を多角経営するシティマート・ホールディングスの創設者。現在はマネージングディレクターを勤める。97年にはPahtama Group も設立した一員である。

ミャンマー流通業の最大手
日本が1つのモデルに

永杉 本日はお忙しい中、貴重なお時間を頂戴しましてありがとうございます。ミャンマー流通業界最大手であるシティマート・ホールディングスの創設者に話を伺うことができ光栄です。シティマートグループの発展ぶりには目を見張るものがあります。
まず、会社の創業に関する経緯をお聞かせください。

ティン 1996年末に最初の店舗を構えました。当時のヤンゴンにはすでにAsia Light とMyaing Hay Wun、そしてシンガポールのチェーン店が営業していましたが、スーパーマーケット自体はミャンマー人にはなじみのない存在で、開店当初は多くの壁に当たりました。昔からの個人経営の商店とは品揃えがまったく異なり、価格帯で個人商店と競争するのも難しく、集客にも苦労しました。
ミャンマー人消費者は価格にとても敏感なため、まず価格差を小さくするための努力をしました。さらに、例えば衛生面や商品の品質・利便性などスーパーマーケットとしての環境づくりにも腐心しました。当時はシンガポールやタイ、マレーシアなど近隣諸国で大型量販店が次々にオープンしており、見学してスーパーマーケット経営について学び、海外の雑誌から小売や仕事についての情報を得ました。
また日本の伊勢丹や高島屋などの百貨店、そしてイオン等の大手小売企業を大いに参考にさせて頂きました。日本へは2000年に初めて行き、以降は仕事や観光でたびたび足を運んでいます。日本の流通分野は卓越したサービスや効率性、そして経営について学ぶべきものが多くあり、日本を訪れるたびに最新の流通技術にふれることもできて、とてもわくわくしますね。

国の情勢の変化をとらえ流通業界に感じた可能性

永杉 なるほど、今日の成功はご自身の才能と努力で培われたものなんですね。失礼ながら、日本で研修されたとばかり思っていました(笑)。
そもそも今のビジネスを始めるにあたり、「流通業・スーパーマーケット」を選ばれたのはなぜですか。

ティン 偶発的な要因が大きいのですが、当時の国情の変化も大きかったです。1992年はミャンマーに海外投資家がビジネスチャンスを求めて入り始めた年でもあり、私たちのファミリービジネスもその中でビジネスチャンスを模索していたところ、シンガポール在住の遠縁にあたる人が、近隣諸国で当時ブームになっていた「スーパーマーケットビジネス」を勧めてくれました。
まったく経験のない分野での起業でしたが、幸いシンガポールでのスーパーマーケット経営の経験がある方を紹介され、会社のゼネラルマネージャーとして任せることができ、開業に向けての諸準備に大いに尽力してくれました。こうして96年12月、シティマート・スーパーマーケット(以下「シティマート」)1号店がヤンゴン中央駅近くのアウンサンスタジアム横にオープンしたのです。

ミャンマーが誇る多店舗スーパーマーケット
急成長したミャンマー流通最大手企業の戦略とは――

変化していく小売業の今後
メイドインジャパンの評価

永杉 今ではヤンゴン市内にスーパーマーケットを23店舗、御社の展開スピードには驚くばかりです。
現在、日本大手のイオン等がミャンマー進出を計画していますが、進出する企業に対してのアドバイスはありますか。また昨年、双日との関係がニュースになりましたが、最近はいかがですか。さらに、シティマートはミャンマー市場に参入を狙っている日本企業から注目を浴びています。日本の製品をどのようにご覧になっていますか。

ティン 昨年制定された「ミャンマー外国企業投資法」によると、現時点では外国の流通企業は直接ミャンマーで会社を経営することはできません。しかし、2016年からは変化が現れるでしょう。そして2020年までには、すべての業種で外国企業による直接投資が可能になるはずです。将来のマーケットの状況を見越した準備が必要不可欠です。

国家の急速な発展と共にミャンマーでの市場は拡大し、とりわけ流通業界では国際水準に達してきており、競争は以前より激化しています。弊社ではこの変化をポジティブにとらえ、競争だけでなく新たなチャンスを生むものだと分析しました。現在、サービスと効率の向上に主眼を置き、将来的にビッグパートナーと協働できる素地を作りあげる努力をしています。

また、双日グループと弊社は合弁を組み、日用品や食品の提供・先進的な販売方法と流通システムの構築・冷蔵冷凍施設の整備など、双日の持つ近代的なビジネスを吸収しています。将来的には冷蔵冷凍市場をもっと拡大していきたいと計画中です。

現在、シティマートでは日本製品も多く陳列しています。シティマート関連会社6 社を通じ、海外から直接買い付けや卸売りを通して商品輸入していますが、品質的に日本の製品は申し分ありません。しかし消費期限が非常に短く、価格が高いので日本製品の輸入にはとても気を遣います。最も人気があるのはお菓子や寿司・刺身などの食品、調味料です。今後は一般の消費者にも手が届くメイドインジャパンの製品として特に食品に注目しています。日本製の家電も多く扱っていきます。

発展と競争の中の流通業界
今後に向けた戦略とは

永杉 最後に、シティマート・ホールディングスは近年、ミャンマーの3つの都市で多くの店舗を展開していますが、今後の計画についてお聞かせください。

ティン メインブランドであるシティマートは都市型の客層をターゲットにしており、市内の主要な地域で店舗展開をしています。ヤンゴン市内では人口の急増にともない交通渋滞も激化し、買い物に費やせる時間が減ってきました。そんな忙しい都会の富裕層のために、ほしい物が店舗内で全て迅速に提供される、便利なワンストップショッピングを目指していきます。将来的にはアッパー・ミドルクラスの消費者を取り込んでいく戦略です。

オーシャンは家族連れ買い物客を狙った大型店で、ハイパーマーケット(大型スーパーマーケット)の位置づけになります。来年にはピンウーリン、モンユワ、モーラミャインなど中核都市への出店を計画しています。

創立以来約18年間、多くの課題に直面してきました。事業に苦労はつきものです。当初は国の脆弱な経済体制の中での限られた仕入れで、いかに消費者の心をつかむかに腐心してきましたが、最近は人材不足が大きな悩みになっています。人件費は高騰し、不動産価格はうなぎ上りで、本当に頭の痛い問題です。

永杉 業界をリードする企業だからこそ、常に課題との闘いなんですね。今後ますますお忙しくなると思いますが、消費者のため、ミャンマーの将来のためにご尽力ください。さらなるご活躍を心から祈念しております。

シティマート15店舗、オーシャン・スーパーセンター7店舗( マンダレー等含む)、マーケットプレイス2店舗、シーズンズ( ベーカリー)22店舗、シティケア( 薬局)23店舗、シティエクスプレス(24 時間営業のコンビニエンスストア)40店舗、ベビークラブ4 カ所、ポピュラー( 書店)4店舗などを経営。シティマートの名称はヤンゴンのみで、ヤンゴン以外の都市では異なるブランド名で運営をしている。買い物客数はシティマート、マーケットプレイス全店合計で1 日平均7 ~ 8万人、オーシャンは1 日平均3~4万人という。
[2014年7月末現在]

MYANMAR JAPON CO., LTD. 代表
MYANMAR JAPON および英字情報誌MYANMAR JAPON+ plus 発行人。ミャンマービジネスジャーナリストとして、ビジネス・経済分野から文化、芸術まで政府閣僚や官公庁公表資料、独自取材による多彩な情報を多視点で俯瞰、マーケティング・リサーチやビジネスマッチング、ミャンマー法人設立など幅広くミャンマービジネスの進出支援、投資アドバイスを務める。ヤンゴン和僑会代表、一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員。