医療崩壊という現実にどう向き合うべきか with COVID in Myanmar

YJMC・井上先生が解説するコロナ対策
ワクチンを接種すべきか?
現在、日系社会で話題の中心となっているのがワクチンの接種。しかし、ミャンマーにある中国製、ロシア製への不信感は拭えず、いったん帰国を決める邦人が増えている。ワクチンの有効性とは? 現状のコロナ対策などミャンマー事情も考慮しつつ、井上先生に話を聞いた。
 
Yangon Japan Medical Centre
井上 聡 Inoue So
 

日本帰国がベストの決断
今後も感染拡大の可能性大

──ワクチン接種がミャンマーでも話題となっています
 ワクチンを接種すればコロナに罹患しづらくなり、重症化率も下がります。日本の実績ではコロナ陽性者の死亡率は2~30代でほぼゼロ、40代が0.1%で、50代は0.3%。2~30代は1万人に1人しか死亡しません。その世代にワクチンを打つ必要があるのかと思われますが、急激に感染が拡大し予防のためにも打てるなら打つべきだと感じています。

──現在、日本で接種できるワクチンとは
 mRNAワクチンのファイザー、モデルナ、そしてウイルスベクターワクチンのアストラゼネカです。ただ、アストラゼネカは認可されましたが、風評によって日本政府から慎重検討するように指示が出ています。

──ミャンマーで接種するのはどう思いますか
 日本に帰れないなどの理由があり、50歳以上の方であれば打った方がいいと思います。ただ、中国製シノファームまたはシノバック、ロシア製スプートニクはデータの正確性に疑問が残るので感染予防効果ははっきりしません。一方、アメリカ製のモデルナ、ファイザーは適正な数字を発表していると思われますが、mRNAワクチンはマイナス80度の保存が必要なためミャンマーでは打てません。

──つまりは日本に戻って接種するのがいいということでしょうか
 それができるならベストでしょうね。

──自宅療養におけるポイントは
 動脈血酸素飽和度を測るパルスオキシメーターを手に入れ、肺機能をこまめにチェックしてほしいですね。95%以上は問題ないでしょうが、90前半になるようだと酸素投与の検討が必要です。基本的には1週間ほどで回復していくはずですが、それ以上続くようだと、症状が中等症になっている可能性があります。発症後1週間経っても好転しないなら肺炎やサイトカインストーム(免疫の暴走)などの危険性があるわけです。

──根本的なウイルスの排出方法とは
 体内に徐々に抗体ができることで、ウイルスが排除されていきます。そのため薬よりも体力が重要になるわけです。食欲がなくても何か食べた方がいいですし、もちろん水分も十分取ってください。ウイルスは薬で殺すのではなく、抵抗力で治す病気です。イベルメクチンなどの話も出ていますが、基本的にウイルスの増殖を抑えるだけ。よく飲み、よく食べ、よく寝るというのは理にかなっています。

──今後、ミャンマーの感染はどうなっていくと思いますか
 7月14日には7,000人以上の新規陽性者が出ましたが、実際にはもっと多いのではないかと思われます。というのは、第二波に比べて圧倒的に検査数が少ないこと、陽性率が高いということは、検査対象が症状のある人に限られていることを意味しているからです。そのため実際に発表されている3倍~6倍くらい感染者がいてもおかしくない。前回は多くの隔離施設を作り、対策もしましたが、今はほぼ野放し状態。多くの都市の病院も満床ということで、医療崩壊といってもよい状態なので、皆様も十分感染にはお気をつけいただきたいと思います。

▲バハン地区にあるYangon Japan Medical Centre。現在、井上先生は日本に帰国し、クリニックも一時閉院中
▲日系企業にも従業員が亡くなるなど深刻化しているミャンマーの現状。
(写真:Radio Free Asia)

JCCM・根岸副会頭に聞く日系企業の対応とは?
ミャンマー駐在員の帰国動向
日系社会にも新型コロナウイルスの感染が広がっているミャンマー。事実上の医療崩壊を相まって、日本に帰国を決める企業も増えてきた。ミャンマー日本商工会議所(JCCM)の根岸副会頭に帰国動向を語ってもらった。
 
ミャンマー日本商工会議所 副会頭
丸紅ヤンゴン支店 支店長

根岸邦夫 Negishi Kunio
 

全員退避を決める企業が増加
再渡航判断のポイントとは?

 コロナの感染拡大にともなう日系企業の動きは、昨年とは大きく異なる。昨年のコロナ禍でも多くの駐在員が日本に退避したが、2月1日の政変後も一定数の駐在員は残っていた。背景には「一度帰国すれば、いつヤンゴンに戻れるのかわからない」といった事情があり、商社を筆頭に物流や製造などエッセンシャルメンバー(事業運営に不可欠な従業員)はそのままミャンマーで業務を継続。しかし、今回は多くの企業が“全員退避”を決断した。その理由には、昨年の第一派、第二波の状況と比べ、第三波ではすでに多くの日本人が感染していること、医療が事実上崩壊していること、日本でワクチン接種が受けやすくなったこと、そして上記の「一度帰国すればヤンゴンに戻れない」という問題を解消する“JCCM一時帰国支援プログラム”が設けられたことが挙げられる。

 「現状のミャンマーはリスクが大きく、人命の最優先という観点で全員退避を決める企業は多い」と話すのは、JCCM副会頭の根岸氏。

 根岸副会頭もミャンマーに2年近く残っていたが、今回の一時帰国支援プログラムを利用しいったん帰国、ワクチンを接種した後に再びヤンゴンに戻ってくる。「ただ、ワクチンを接種しても100%安全ではなく、再渡航には2つのポイントがあると考えています。1つはミャンマーの感染拡大が収まること、1つは医療機関に余裕が出てくること」。

 根岸副会頭が予測するミャンマーの感染が落ち着く時期は9月~10月で、仮に8月に日本に帰国すれば、ワクチン接種後の9月~10月に戻ってくることが可能。その頃にはある程度、医療機関も落ち着き、酸素濃縮器なども配備され、一定の条件をクリアする最短のスケジュールだとみている。

 ミャンマーの感染が落ち着けば、根岸副会頭はすでに日本に退避している駐在員、これから日本でワクチン接種する駐在員のヤンゴンへの再渡航の需要が高まると考えている。言い換えれば、8月~9月のミャンマーに残る邦人はこれまでで最も少なくなるが、JCCMではそうした状況は一時的であり、ミャンマーの邦人数は再び増えていくと見込んでいる。

▲ワクチン接種できるようになった成田と羽田。
ただし、ミャンマーが変異株指定国になるなど情報は随時変更されるので常にチェックが必要