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ドル枯渇、チャット下落危機、日系企業が果たす責務とは混迷する状況下の経済活動

夜間外出禁止令が緩和され、日常的に会食もできるようになった現在のヤンゴン。一方で連日の爆破事件、ドルとチャットが枯渇するなどの問題も起き、今もなお予断を許さない状況は続いている。日系企業は一体どうすればよいのだろうか。現在の経済、チャットの動向など注目のキーワードを取り上げ、実情をお届けする。

多くの業種が回復傾向ながら金融問題も勃発
不安が入り混じるビジネス
徐々に回復しつつあるミャンマーの経済活動。ヤンゴン市内の治安は落ち着き始め、スタッフを全員出社させる企業なども増えてきた。一方で残るのは金融不安。日々難しい舵取りを迫られる日系企業はどう動けばよいのだろうか?
JETROの田中所長に話を聞いた。

JETRO Yangon
Managing Director
田中 一史[Tanaka Kazufumi]

徐々に経済活動は回復
欧米企業の動向とは

─ミャンマー経済は戻ってきているのでしょうか
 金融以外は比較的戻ってきている印象です。全体でいうと物流、製造、スーパー・コンビニ、外食レストランなどはほぼ回復していますが、経済のキモとなる金融が戻ってこないと長続きしないため、そこはいち早く回復してもらいたいと考えています。
 細かく見ていくと、物流は世界的なコンテナ不足が問題となっていましたが、そもそものミャンマーの物量が減っていることもあり、動かせていると聞いています。銀行で輸入関税などを支払うときに必要なPO(purchase order)を買えないという問題もありましたが、今は苦労しながらも対応しているようです。
 また、製造業は縫製業を中心にほぼ戻ってきていますが、キャッシュ不足による資材の支払いや従業員の給与払いなどの問題が起きており、何とかツテなどを辿って対処しているのが実情です。
 ODAも主要なオンゴーイングの案件は続いていますし、レストランも夜間外出禁止令が緩和され、日本人駐在員の間でも外食をするようになってきています。公官庁については、ネピドーは元々通常稼働しており、ヤンゴンにある政府機関、イミグレーションも開きましたし、DICAも通常通り業務しています。
 ただ、国立病院、公立学校は市民不服従運動(CDM)の影響がいまなお残っており、軍政の目のあるなか、なかなか回復が難しいところです。ただ、日本人が利用するような私立病院は問題なく開業しています。

▲日系縫製工場が入居するミンガラドン工業団地は、多くの工場でワーカーが復帰し、通常稼働に戻りつつある
▲日本人御用達のスーパー、マーケットプレイスは一部店舗をクローズしているものの、問題なく営業している

─日系企業の操業状況については
 ラインタヤ地区、シュエピタ地区、ミンガラドン工業団地に進出している縫製業や検品会社などは通常通り稼働しています。御社のサイトでも報じていた通り、H&Mなどの大手アパレルも再開すると発表しました。政情不安といえど、コロナ禍の感染拡大の影響も重なり、隣のバングラデシュや周辺国などに生産工場を直ぐに移すというのは現実問題として難しいと考えます。また、日本の官民が推し進めるティラワ経済特区も5月21日時点でクーデター前の操業企業数82社に対して、68社(うち日系37社)が操業中で、8割強が稼働しています。

─欧米企業についてはどうでしょうか
 欧米企業はミャンマーを撤退し、日系企業はミャンマーに固執しているといった観測報道がクーデター直後、一部で散見されていましたが、10の外国商工会議所の合同調査によると欧米も日系もほとんど同じスタンスでした。今後1年の操業方針は「現状維持」や「わからない」といった回答が大半で、欧米もすぐに撤退ということにはならないわけです。軍関連企業との関係はセンシティブな問題ですが、欧米企業も現状を様子見という状況で、それは日系と同じ。外資企業は従業員の雇用を守るという責務がありますので。

─軍事政権下で日系企業が気をつけるべきことは
 「責任のある投資」という観点からも、従業員の生活・雇用維持、安全を確保しながら、今後の行方を見て方針を決めていってもらいたい。今すぐに答えを出すことはできないでしょうし。

─操業できるが、給料の支払いが困難になるかもしれません
 従業員の銀行口座を開けば、インターネットでの給料の振り込みは可能です。一方で現金を引き出すのは大変苦労しますが、従業員に給与の支払いを止めるわけにはいかないため、銀行振り込みに変えられる企業は対応した方がいいと思います。試しに私もオンラインバンクの口座開設の手続きをしたところ、1週間もしないうちに対応してもらえました。もちろん銀行や申し込む人数などにもよるのかもしれませんが。

▲ローカル銀行のほとんどが未だ営業を停止した状態。ドルを引き下ろせない日系企業の苦難は続いている