帰国か、残るか ミャンマー在住者に課される選択(P.2)

業界別・日系企業の退避状況
日系企業に勤める3人にそれぞれの業種の退避状況を聞いた。日系企業はどういうジャッジをしているのか?

建設

 建設工事においては、地方の現場とティラワ経済特区(SEZ)以外では、ほぼ止まっているのが現状です。退避状況でいえば、日本人全員が帰国という企業も増えてきました。20人以上日本人がいるような大規模プロジェクトに関わる企業も全員帰国といったケースもあり、4月末には多くの人が帰国する可能性が高いです。

 昨年4月にコロナ禍で駐在員がいったん日本に退避し、その後、6月以降の救援便でミャンマーに戻り、今年の1月には多くの駐在員が帰ってきました。そのときの駐在員数は、コロナ以前と同等かそれ以上だったと記憶しています。しかし、クーデター以降、2月は様子見であまり増減はなく、3月に本格的に退避が始まり、4月に入ってから退避の動きが一段と加速、残っている人数のイメージとしてはクーデター以前の約7割減。また、サブコンなどの業者は帰国の判断も自ずと遅くなるため、タイムラグはありますが、帰国の流れは続くでしょう。

 建設業界での帰国の背景には「治安への憂慮」といった問題に加えて、ヒト・カネ・モノの動きが止まることから起こる「業務不可能」といったことが大きいです。建設業のため、リモートでできることは限られています。

 ミャンマーに戻ってくる基準となるのは、上記のようにヒト・カネ・モノの流動性が回復すること。人手が集まらない、銀行が動かない、通関を通せない、では非常に厳しいと言わざるをえません。そして先行きも見えないため、「いったん戻りましょう」といった判断を下している企業が多いです。

 民間事業は凍結状態で、ほとんどのODAも再開時期は見えないですし、新規の入札も始まる雰囲気はありません。またこうした状態から現場のエンジニアやワーカーの大量解雇を余儀なくされ、ミャンマー人の雇用環境が失わる事態となっています。

金融

 弊行は昨年のコロナで全員が日本に帰国し、その後ミャンマーに戻ってきて2名となりました。他行でも2名やゼロというところもあれば、保険においては4名もいる企業もあります。今後の退避に関する明確な基準はありませんが、外務省が発表する危険情報のランクが3以上になれば、検討する要因にはなるでしょうし、いざ退避できるよう飛行機のチケット予約は更新を続けている状況です。

 ヤンゴン市内における治安は時間と場所さえ留意しておけば比較的落ち着いていると感じています。とはいえ、引き続き市民不服従運動(CDM)の影響があり、銀行間取引は皆無、地場行との国内決済の滞りも多く、金融の正常化にはほど遠い状況です。そのようななか、臨機応変な対応や現場感覚を含む情報収集の観点からも、現地に日本人職員を置いておく意味は大きいと考えています。

 なお地場銀行は4月29日までに従業員がボイコットを続ければ解雇するという、おそらく当局の意図を汲んだ通告が出ており、これに呼応して従業員が戻れば5月から少しずつ金融も動いていくのかもしれません。一方で外国銀行は、クーデター直後から従業員のCDMを何とかマネージしつつ稼働し続けてきたこともあり、当局から厳しい通達が出ていることはありません。

 直近では決済、制裁関連、資金調達などの問い合わせが増えてきていますが、リソース上の問題もあり、すべてにお応えできないのも事実です。それでも多少お時間をいただいたり、サービスに制約があったりしても、在ミャンマーの日系企業様の活動をご支援すべく、引き続き尽力して参る所存です。

物流

 日系の物流企業はミャンマーに43社(ミャンマー日本商工会議所の会員数)あり、ティラワ経済特区では7社ありますが、日本人全員が帰国したという企業はまだ多くない印象です。ティラワSEZでは2社においては日本人全員が帰国しましたが、ほかは人数を減らすなどして対応しています。

 弊社では、帰国の基準を本社が定めているわけではなく、ミャンマー側で決めています。設定したのはティラワSEZ内の同業の日本人が全員帰るか、もしくは弊社の主要顧客50%の企業の日本人が帰国したら我々も退避します。

 業務でいえば、貨物量は2月1日以降から圧倒的に減りました。CDMの影響もあり、銀行業務が稼働していないというダメージも大きいです。4月以降、ティラワSEZでは94社が稼働とのことでしたが、実際は30社前後は停止している印象で、自ずと通関の申告件数や業務も減りましたが、当地にやはり日本人がいないとオペレーションが厳しいことは変わりません。

 各社組織の体制にもよりますが、MDがお金の管理をしているため、そうなると自ずと日本人の社員が必要となります。銀行書類へのサインのみならず、顧客対応での現金工面などMDの判断が不可欠。どうしても日本国内での報道は過激な情報として伝わりがちですが、現地の肌感覚というのは当地にいなければわかりませんので、そうした現場感も重要だと考えています。

 街中が危険になったら? 治安の問題については外務省や大使館の情報を参考にしています。現状は夜間外出禁止令に従えば、そこまで大きな問題はありません。外務省の危険情報のレベル3、4となれば、帰国者は大幅に増えるでしょうし、4にならないと帰らないという企業もあります。

 物流業界は、元々お客様がいるのに差し置いて帰るという発想自体がありませんし、基本的にそうした考え方を持つ企業が多いです。リモートワークでも一部対応はできますが、正直難しい点も多いのです。物流などのサービス業の帰国は、最後の最後になる気がしています。