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ミャンマー進出検討企業、最大の懸念点 電力の現実

ヤンゴン市内の多くの住民が停電を余儀なくされ、苦しんだ5月、6月。計画停電は終了し、明るい兆しが見えたと思った矢先の電気料金の値上げ。なぜこうしたことが起こるのだろうか?
この国の電力にはどういった問題があるのか?そして解決策とは?
ミャンマーの未来を左右する最大の課題を取り上げる。

 ヤンゴン管区で5月前後から開始した計画停電が6月22日、ついに終了した。それまでの期間、SNS 上ではライフラインの停止に対する不満や愚痴であふれ、政府に失望する声も見られるなど、決して穏やかな状況ではなかった。
 そして計画停電がストップしたかと思えば、6月25日、突然の電気料金の値上げを発表。翌週の7月1日から施行されている。
 こうしたドタバタ劇は電力問題に限らないが、いずれも理由がある。今年、ヤンゴン市内では雨季にもかかわらず雨が少なく、それは地方でも同様で、特に水力発電所が集中する北部エリアも雨が降らず、ついには計画停電に至った。電気料金の値上げは、電力エネルギー省の逼迫した財政状況を見れば一目瞭然。配電すればするほど赤字を垂れ流す状況だったため、値上げが実施されてこなかったことがむしろ不思議なほど。下記でJICA の中島氏にこの国の電力事情を総括してもらったが、上記のようなことも、もはや当然のこととして理解できる(発表が急なのは問題だが…)。
 もっといえば、南部エリアでは今もまだ電力が送られていない地域があり、そもそも停電すら起こることもない。ヤンゴン市内には5つもの発電所があるが、その多くが経年劣化で老朽化し、十分な稼働をしていない。老朽化は全国の送電網にもおよび、送電中に電力を失う損失も大きい。また、不透明な法制度により、電力関係の外資も盛況とはいえず、電力エネルギー省の人材も少ないため、案件の対応にも限界がある。つまり課題が山積しているのだ。
 こうした実情を理解しているからこそ、日本政府は川上から川下までをサポートすべく、彼らに寄り添いながら、事態の改善に努めている。意思決定のスピードという点においては、まだまだ不満かもしれないが、状況は少しずつ上向いているのだ。こうした課題を同時進行で解決しなければならないため、一朝一夕には困難がともなう。そうした事実を理解しながら、現状を見守ってほしい。

難題を抱える電力事情をJICA・中島所員が解説
なぜミャンマーで停電が起こるのか?

5月、6月……例年に比べて異常な回数で起こった停電。理由については、さまざまな要因があり、ヤンゴンのみならず、ミャンマー全土の電力事情を俯瞰して理解する必要がある。JICAの電力担当・中島氏に解説してもらった。

JICAミャンマー事務所所員
中島洸潤
[Nakashima Kojun]

水力発電への依存 枯渇傾向のガス発電

 この国のエネルギー資源のポテンシャルに目を向けると水力資源は100GW(10万MW)相当のポテンシャルを持ち、実際に開発できるとされているのが40GW(4万MW)。ミャンマー全土で必要な電力が、2020年には約5GW、2030年には約15GWと見込まれていることから(図A)、相当なポテンシャルを有していることがわかる。また、ミャンマーでは原油、天然ガスも産出し、さらには石炭、風力、太陽光も活用することが可能。ただし、天然ガスは中国やタイとの輸出契約に基づき全体の約8割を輸出し、国全体の総輸出額の約3~4割を占める一大産業となっており、国内向け(供給は約2割にとどまっている
 既存の4つのオフショアガス田による天然ガス供給は将来的には減少の一途を辿り、2030年迄には枯渇するガス田もあるといわれている。そのため代替のエネルギー源確保が重要な課題。将来的には再生可能エネルギーが増えることも見込まれ、太陽光についてはマンダレーやマグウェイなどの中部の乾燥地帯が有望。中西部のザガイン州などでは炭田もあり、国内炭を活用した石炭火力発電の可能性もありうるという。膨大な開発ポテンシャルを有する水力発電と合わせてバランスよく開発すれば、将来的な需要増をも賄えるポテンシャルを秘めているのだ。
 今回、連日の停電となった背景の一つには、ミャンマー特有の電源バランスが挙げられる(図B)。現在、ミャンマーの発電構成は、水力が全体の60%を占め、次いでガスが37%といった構造となっており、水力の割合が大きいため、発電量が季節変動の影響を受けやすい。5300MWの発電設備容量があるが、乾季には水力発電量が減少するので、実際の年平均出力はおよそ3800MWとされる。こうした事情から、今年4月から6月にかけて水力発電所が集中している北部地域での降雨量が少なく、水力発電所の水量が例年より少なかったこともあり、停電の頻発につながったといわれている。
 地域別の電力消費も、ミャンマー特有のバランスとなっている(図C)。ヤンゴンが全体の約半分を占め、続けてマンダレーが17%。エーヤワディ地域は人口約620万人とマンダレーとそれほど変わらないにもかかわらず、わずか3%。それだけ2つの地域に電力供給が集中し、地方には十分に行き届いていない。
 ヤンゴンには、民間独立系発電事業者(IPP:Independent Power Producer)によるガス火力発電所が4つで合計設備容量は約400MW、電力エネルギー省(MOEE)所有のガス火力発電所が5つで合計設備容量は約760MWとなっている。MOEE所有の発電所のうち一つはODAで建設を支援したティラワ経済特区(SEZ)に隣接するガス火力発電所で、それ以外の4つは老朽化やガスタービンの損傷などが進み、十分には稼働しておらず実際の出力は半分以下になっている。ヤンゴンのピーク電力需要は1700MWといわれているものの、ヤンゴン市内の発電所だけでは賄いきれず、数百MW単位で他の地域や自家発電から補填しなければならない状況にある。
 新規の発電所建設のみならず既存の発電所の修繕も重要課題で、JICAはODAによるヤンゴン市内のタケタガス火力発電所や、マンダレーのバルーチャン第一水力発電所、カヤー州のセダウジ水力発電所の修繕も支援している。 ▲アローンにあるガス火力発電所。長年使用した老朽化から思ったような発電ができておらず、修繕を行っている