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外資ビジネスの実情は一体どうなっている? 最新版 ミャンマー進出動向

ティラワ経済特区にトヨタが進出-。日本を代表する大企業の参入は、日系社会に大きなインパクトを与え、成長を遂げる現在のミャンマーを象徴するホットトピックとなった。一方、「景気が悪い」と漏らす駐在員も一定数おり、電力問題など未だリスクも尽きない混沌とした状況で、気になるのが日系企業の進出動向。企業数は果たして増えているのだろうか?実情に迫る。

 「一時ほどの勢いはない」と言われる現在のミャンマーだが、本当に日系企業の進出には陰りが見えているのだろうか?下記のインタビューで、JETRO の田中所長が話す通り、MICによる発表では、投資額面は減少傾向だが、そもそも製造業の大本命であるティラワ経済特区(SEZ)の投資や認可の必要のないIT事業は含まれていない。
 むしろ製造業にいたっては、好調な話題ばかりが注目を集めている。ティラワSEZ への進出ニュースは途切れることはなく、なんといっても先月発表されたトヨタの参入は大きなインパクトを持って報じられた。とはいえ、現状の生産方式は部品を海外から輸入し、組み立てるSKD(セミ・ノックダウン)であり、イチから国内生産するCKD(コンプリート・ノックダウン)までには至っていない。CKDを実現させるには工作機械なども必要となるが、この国ではほとんど見られないのが現実であり、今後は一次下請け(ティア1)、二次下請け(ティア2)の進出がカギとなる。そういう意味で、自動車部品を製造する矢崎グループ(次ページ)の進出は、一筋の光と言えるだろう。
 また、IT分野においても、これまで主流だったオフショア開発ではなく、3ページ目の高田氏のようにローカル向けにサービスを提供するなど、マーケットへの指向も変化が起きている。
 サービスの多様化も始まりつつあるミャンマー。この国が成熟期に入ったなどとは、まだまだ決して言えないが、それでも進出企業の業態や市場が徐々に変貌しているのも事実。日系企業には、数字だけでは見えない部分に着目しながら、中長期的な視座で事業運営していくことを期待したい。

前年の件数は過去最高
日系企業の動向に注目

2019年、産業が拡大

何かと景気が悪いと言われる現在のミャンマー。一時の進出ブームに比べれば、致し方ないところはあるものの現状は一体どうなっているのか?本当に進出は鈍化しているのか?
進出案件のゲートウェイとも言えるJETROの所長である田中氏に実情を語ってもらった。

JETRO Yangon Managing Director
田中一史
[Tanaka Kazufumi]

トヨタがティラワに進出
裾野産業も増加傾向

―2018年度(2018年4月~2019年3月)の外資の傾向を教えてください
 ミャンマー投資委員会(Myanmar Investment Commission/以下MIC)の外国直接投資の推移(図1)をみると、17年度は約57億ドル、18年度は全体的に減り、日本も約半減しています。17年度の投資額が大きかった背景には、大型の不動産案件が続いたため。一つは鹿島建設による都市開発事業(ヤンキン地区複合開発)、もう一つは東京建物とフジタによる大規模複合開発事業。18年度は大型案件がなかったため、認可ベースの投資額は落ちました。ただし、これらの数字は、ティラワ経済特区(SEZ)やMIC認可が不要なIT分野などは含まれておりません。さらに直近では小売・卸売業の規制緩和があり、イオン、ユニチャーム、大塚製薬、豊田通商、アサヒグループホールディングなど日系企業だけでも5つの大型案件が認可されています。こうしたケースも商業省の認可によるものなので、数字には反映されず、一喜一憂する必要はありません。

―では、どのような数字から分析すべきでしょうか
 外国直接投資では、15年度が95億ドルで、アウン・サン・スー・チー国家顧問政権の16年から3年連続マイナスとなりますが、我々が注目しているのは件数(図2)です。仮に電力案件などが認可されると投資額はかなり増えますが、件数ならわずか1件。全体の推移では、18年度が過去最高の224件。過去最高を記録しましたが、大型案件がないため、投資額は減ったわけです。案件の7割が製造業で、主に中国やアジアからの軽工業の投資が増えたため、過去最高になりました。

―投資総額よりも重要ということですね
 さらに実際のお金の流れも大事です。中央銀行が取りまとめている国際収支統計によれば、直接投資額は17年度が過去最高の3,588億ドルとなりました。MICの投資額はあくまで認可ベースのため、実際にお金が入ってくるわけではありません。前政権時の15年度をピークに直接投資が減少しているといった指摘がよくありますが、実際に入ってきた金額は2,915億ドル。15年度末に認可された中国企業によるダウェー郊外での30億ドルに上る製油所建設計画は、資金調達がうまくいかなったことを理由に中止となり、実際の収支は17年度がトップなのです。18年度はまだ数字が出ていないのでなんとも言えませんが、実際の外国直接投資はMICだけで判断はできません。ちなみに日系企業に限って言えば、SEZとシンガポールなどの第三国経由を含めると18年度は23件、投資額は4億ドル弱となり、16年度よりも増えています。
―ほかに目安となるものはありますか
 商工会議所の会員数です(図3)。18年度末は392社なので、これも毎年右肩上がりです。

―進出について、注目すべきトピックを教えてください
 特徴としては、ティラワSEZなどにおいて、裾野産業が増えてきています。具体的には、プラスチック製品などを製造するトーノ精密、ワイヤーハーネスで有名な矢崎グループも進出しました、ガスケットやホース、ゴム部品などの製造を行うミャーナックもティラワSEZのゾーンBに進出します。これまでミャンマーの製造業といえば、縫製業の印象が強かったのですが、今後は徐々に裾野産業も出てくることを期待しています。そして、先月は、トヨタによるティラワSEZのゾーンBでの工場建設が発表されました。これは自動車産業のみならず、ミャンマーという国においても大きな明るいトピックと言えるでしょう。当初はSKD生産(セミ・ノックダウン/主要部品を輸入し現地で組み立て)になると思いますが、部品を作る裾野産業がもっと出てくれば、先発のスズキや日産なども含め自動車メーカーの現地調達への意欲が高まるでしょう。

進出のライバルはベトナム
可能性を秘めるミャンマー

―進出検討の問い合わせ内容の傾向は
 ベトナムと比較される方が多いのですが、近年、ベトナムも人件費の高騰や競合が激しくなっているため、ミャンマー進出を検討している企業も多いですね。

―ベトナムとミャンマーの違いを説明するとき、どういった話をしていますか
 ミャンマーは5ヵ国と陸路でつながっており、地政学的にも優位性があります。交易拠点になるポテンシャルを秘め、インド、中国といった人口の多い国への輸出拠点になるのです。さらにミャンマーの国内市場は5300万人のマーケットがあり、内需も見込めます。そして、注目すべきは人口ボーナス(図4)。ベトナムは人口ボーナスの薄緑色の期間は2016年に終了、ミャンマーでは29年まで続き、最終的には53年までその恩恵を受けます。ベトナムは41年に人口ボーナスが終わるため、ミャンマーの方が中長期的なポテンシャルがあるわけです。先行者利益という意味では、やはりミャンマーの方が優位性があると考えます。

―安価な人件費が重要という企業は多いのでしょうか
 業種によります。縫製業のような労働集約型であれば、スタッフ数が多くなるため、人件費は気にされます。

―第一次産業についてはどうでしょうか
 やはり農業が一番多いですが、水産業も含めて問い合わせはたくさんあります。具体的には、農業機械の販売や食品工場の設立など。ガパリやラカインなどで魚を収穫し、加工したいといった問い合わせも何件かありました。

―IT分野については
 現在、ミャンマーでは日系としては40社ほどあると言われ、引き続き有望な分野。問い合わせも日常的にありますし、オフショアの開発センターという意味合いもありながら、一方で日本の人材不足解消のための育成機関という側面も強いです。また、ITはMIC認可は不要で、登記をするだけで事業展開できるので、参入障壁は低く、今後も高い可能性があります。

―日本で人材確保が厳しく、海外進出したいといったケースは
 やはり都市圏以外の企業だと、そうした問い合わせも多いです。または委託生産先を探すといったことも。人材不足が深刻な中小企業は結構多く、真剣に考えられて問い合わせが来ます。

―問い合わせの件数の推移はどうでしょうか
 年々増加傾向にあります。ちなみに2018年度は年間1570件。ただ、1社から複数の相談や何回も寄せられることもありますので、純粋な会社数というわけではありません。

―リスクはどのように説明していますか
 一番危惧されるインフラの問題については、時間の経過とともに改善されるのは間違いありません、とお伝えしています。

―ラカイン問題については
 実情をあまりご存じない方は、ネガティブなイメージを持たれますが、「基本的に経済活動には問題ない」とお答えしています。とはいえ、欧州連合(EU)では、経済制裁も検討しており、EU向けの輸出業であればリスク要因であることは間違いありません。あと、いつまでも人件費は安いわけではなく、経済発展と共に上がっていきますので、事業計画策定の際は多めに見積もった方がよいとアドバイスさせてもらっています。土地のリース料や建設コストなども基本的に同じ考えです。