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ミャンマー在住者最大の関心事 実録!医療最前線

病院に行っても決して“一安心ではない” のが、ミャンマー医療の現状。海外で生活をしていれば、リスクの回避は自己責任であり、必要となるのが事前準備。この国の医療の実情を知り、自分自身で備えることが不可欠となる。今号の特集が“ 万が一のため”の一助となれば幸いである。

 ミャンマー在住者にとって、一番の関心事といっても過言ではないのが、医療だろう。食中毒、デング熱、結核といった日本ではなかなか経験しない病気との遭遇率の高さは、日本と比べるべくもなく、実際それらにかかった在住者も少なくない。ゆえに日常的に心がけておきたいのが、“もしも”のための準備。脳や心臓などの一刻を争うとき、子どものけがや急な発熱、妊娠時の対応など、あらかじめ調べておけば少なからず不安は解消される。
 それにはミャンマーの病院事情といった理解も必要。ミャンマーの私立病院は通常、複数の病院と契約しているフリーランスのような専門医が患者を担当し、技術も医師によってばらつきがある。下記のKさんのようにたまたま欧米人の医師に手術をしてもらえたケースもあるが、それはたまたまのこと。すでに体の特定部位に不安がある人は細かく調べておいた方が無難であり、「もし●●の状態になったら、●●病院へ」といったことを家族で共有しておくのも大切。医師の問題だけではない。器具や注射も同じ。狂犬病のワクチンは、必ずしもすべての病院にストックされているわけではない。P9のKさんの場合、たまたま行った病院で狂犬病専用の受付があったことが幸いし、何も問題なく治療を受けることができた。仮にワクチンをストックしていない病院に駆けつけても落胆するだけ。また、ストックしていないのは輸血も同じ。日本ではあまり考えられないが、病院によっては血が足りないケースが多々ある。一刻を争う事態で選択肢を誤れば、命を危険に晒すことにもなる。
 ミャンマー医療への不安はキリがない。だからこそ事前準備が不可欠。最近では、日系の医療サービスを提供する病院や企業も増えてきた。多くの識者が「手術は近隣のタイがいい」と語るように、事前にバンコクの病院をリサーチするのも一つの手だろう。今回は、ミャンマーの医療現場を実際に経験した人の話や専門家へのインタビューなど、多角的にこの国の医療の実情を紹介していく。

CASE-1 心筋梗塞・狭心症

生死に関わる問題がミャンマーでわかったら……。家族にも連絡が取れないほど差し迫った状況下での手術。不安を背負いながら、Kさんはどのように逆境を乗り越えたのか?
Kさん(51歳) メーカー勤務
問診から3時間後に手術
あわや危険な状況だった
 発覚した経緯としては、毎朝5時くらいに突然胸を締め付けられるような痛みが走り、そのような状態が1週間ほど続いたんです。そして、あくる朝、なぜか歯が痛くなったり、腕が痺れたりして、これは「ヤバイ」と思い、インターネットで調べたら心筋梗塞もしくは狭心症の可能性が高いとわかりました。体を温めれば痛みは収束すると思い、シャワーを浴びて痛みは治ったのですが、体はだるい状態でそのまま出社。朝のミーティング後も体調は一向に改善せず、10時頃病院に向かいました。
 病院で心電図を取り、血液検査で心筋の壊死の有無を調べる検査を行ったところ、心筋梗塞の可能性が高く、医師からは「すぐに心臓の専門医のところに行ってください」と言われ、出てきたのがブルガリア人の医師。造影剤を血管に注入し、心臓の冠動脈の状態をレントゲンで確認するカテーテル検査を行い、心臓にある3本の冠動脈のうち2本が詰まっているとのことで、1本は99%詰まっている状態であり、すぐに手術しないと壊死すると言われました。そのため、血管の詰まっている部分に“ステント” と呼ばれる金属製の網状の筒を挿入して血管を広げる必要があり、治療を行うことへの同意書にサイン、費用の支払い方法を確認し、即手術となったんです。
 ちなみに狭心症とは、冠動脈が完全にふさがる前の状態を言います。心筋梗塞とは冠動脈が“完全に”ふさがり、心筋に血液が流れなくなった状態。心筋が壊死し、重症の場合は死に至ることもあるんです。そのため、あわや危険な状態でした。
 問診からわずか3時間です。なぜ日本で受けなかったか?すでに一刻を争う状況。心臓に絡む症状なので、もはや選択肢がなかったんです。
とはいえ、輸血が必要な手術だったら躊躇していたかもしれません。カテーテル手術は、胸を切ったりするわけではなく、腕からチューブを通し、血液の流れを改善するもの。体には非常に負担が少ない手術で、最近では日本でも増えているようです。この病院に手術設備があり、ブルガリア人医師がきちんとした技術を持っていたことは非常に幸運でした。後で知ったのですが、ブルガリア人医師は、病院に常駐しているわけではなく、タイミング次第では同じような処置が受けられなかったかもしれません……。
 手術中はモニターを見ながら自分の動脈の様子がわかりました。痛み?カテーテルを入れるときに少しありましたが、全体的には我慢できるレベル。気づいたら終わっていたという印象です。
 結局、その日の午後3時には病院のベッドで寝ていました。家族への報告は、手術したばかりだと心配すると思ったので3日後くらい。やはりびっくりしていましたけど(笑)。そのときたまたま日本の親会社の産業医がミャンマーに医療体制の視察に来ていて、私への処置やカルテを確認したところ、「適切」と判断し、そのまま安心して入院したという経緯もあります。
2回目の手術もヤンゴン
原因は生活習慣?ストレス?
 5日ほど入院し、毎日心臓の様子をチェックし、安静にしていただけです。一応、術後の経過を見るため、すぐに日本に帰国。専門医にも見てもらいましたが、大丈夫だと言われました。
 そして、ヤンゴンに戻って、2回目のカテーテル手術をミャンマーで受けました。「なぜ日本で受けないのか?」と周囲から言われましたが、1回目に受けたことの安心感もありましたし、ヤンゴンであればすぐに仕事に復帰できます。日本だと数日は安静にしなければなりませんので。手術自体は1回目と同様、何も問題はありませんでした。
 狭心症の原因は、長年の生活習慣らしいです。中性脂肪が少し高いなどの問題はありましたが、心臓の不調は人間ドックには一切出てこなかったですし、そもそも基本的なプランに狭心症の検査は入っていません。遺伝的に血栓ができやすいということはあるようで、実際父は足の動脈に血栓が詰まって手術したことがあります。
 かかった費用は1回目が120万円。2回目が80万円。会社の保険を使い、確か3割負担でした。術後はしばらくゴルフは控えましたが、現在では徐々に復活しています。ただ、医師から「タバコはやめなさい」と言われたので、それ以来吸ってません。タバコは血管収縮するので、一番ダメらしいです。
 医師からは「1年後に来なさい」と言われていますが、まだ行っていないです(笑)。今は血液がサラサラになる薬を飲み、バランスのいい食事を心がけています。肉ばかり食べないで、野菜もたくさん食べるように。あとはストレスを溜めないように、ですが……なかなか取り除けないですね(笑)。