制度よりも「実務」を理解することが重要
「ミャンマーの税務は?」「日本との違いは?」という質問をよくいただきます。しかし、12年以上ミャンマーで税務・会計に携わってきた経験から申し上げると、本当に重要なのは税法を知ることだけではなく、税務当局が実務上どのような点を確認し、どのように判断しているかを理解することです。
ミャンマーでは税法や会計基準は整備されていますが、税務調査では法律の条文も踏まえつつ、取引の実態や証拠書類の整備状況、会計処理の合理性を確認されます。十分な証憑がなければ経費として認められないケースもあります。条文の解釈の幅が広いために、税務署や担当者によって見解が異なるといった事案も見受けられます。当局とのコミュニケーションが特に重要になってきます。
税務調査では、次のような項目が確認されます。
●記帳義務・帳簿保存
・会計帳簿が適切に作成・保存されているか。
・帳簿と決算書・税務申告書の内容が一致しているか。
●証憑書類の保存
・Voucher(社内伝票)のみでは不十分な場合があります(ガソリン
代など)
・請求書・領収書・契約書など第三者が発行した証憑が重要です。
●感熱紙レシート
・City Mart等の感熱紙レシートは退色します。
・コピーやスキャンを添付して保存することを推奨します。
●印紙税
・賃貸借契約書
・ローン契約書
・レンタル契約書
・株式譲渡契約書
などの印紙税納付状況も確認されます。
●給与所得税
・税額計算の誤り
・米ドル建て給与の税額計算、ドル納付状況
・人件費の実態確認
●個人的費用の計上
・私的な飲食費や買い物を会社経費として計上していないか。
●売上・経費
・売上の過少計上
・経費の過大計上
・収益計上時期(期ズレ)
●棚卸資産・原価計算
・在庫・仕掛品の計上漏れ
・原価計算方法の妥当性
●固定資産・減価償却
・耐用年数省令への準拠
・ヒストリカルレートの適用(ドル帳簿の場合特に)
・車両のOwner Bookが会社名義になっているか。
●グループ会社間取引
・契約書の有無
・サービス提供実態
・請求金額の妥当性
●交際費等
・ゴルフ代などの交際費
・行政罰金
・官公庁への付け届け
※これらは損金不算入となる場合があります。
●個人名義の領収書
・社員個人名義の領収書は会社経費として認められない場合があります。
●寄附金
・損金算入には上限があり、赤字年度には認められない場合があります。
●貸倒損失
・双方署名の確認書類や議事録など客観的証拠が必要です。
・場合によっては警察への届出書類が求められることもあります。
税務調査で重要なのは、「調査が始まってから説明すること」ではなく、日頃から説明できる状態を作っておくことです。契約書、請求書、領収書、送金記録、会計帳簿、税務申告書が一貫しており、取引の実態を第三者に説明できることが最も重要です。これは、日本と変わりません。
ミャンマーでは、「制度を知っている会社」よりも、「制度を実務として正しく運用している会社」の方が税務リスクは低くなります。税法だけを見るのではなく、税務当局の運用や調査の視点を理解し、日常の会計・税務管理に反映させることが、企業を守る最善の対策と言えるでしょう。
(2026年8月号掲載)

執筆者プロフィール
若松裕子
Japan Outsourcing Service Co., Ltd.(税理士法人Right Hand Associates)ヤンゴン事務所長・税理士。
2014年よりミャンマー駐在。中小企業から上場企業、ミャンマー国内法人まで幅広く事業をサポート。趣味は坐禅。
