緊急対談

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ミャンマー知的財産権法(商標法、意匠法、特許法、著作権法)
知財法が成立、日本企業は何をするべきか?

知財法が成立、日本企業は何をするべきか?
法律の未整備から知的財産権の保護が不十分だったミャンマー。年明けから商標法、意匠法が相次いで成立し、特許法、著作権法の成立も待たれるところ。知財法の成立を受け、一体日本企業は何をするべきか?
ミャンマー教育省に出向し知財法整備のアドバイスを行う高岡裕美氏と、TMI 総合法律事務所ヤンゴンオフィスで知的財産案件を取り扱う甲斐史朗氏に話を聞いた。


高岡裕美 × 甲斐史朗

高岡 商標法が成立するまでは、ミャンマーには商標法というものは存在しませんでした。もっとも商標が保護されないというわけではなく、例えば登録法や刑法といった別の法律では一定の保護が与えられていました。実務上は、商標をRegistration Offi ceで登録し、新聞広告をし、使用実績を確保するという方法が用いられているのです。この登録法の下での商標登録は他人の商標を無断で使用し模倣品を販売する侵害者から、自己の商標を守るために必要な実務として存在しており、日系含めて多くの企業がこの実務に則した商標登録を行っています

甲斐 そうですね。商標の「登録」というと、登録済の商標がリスト化されているようなイメージを持たれる方も多いですが、現状の制度はそうはなっていない。現在の商標の「登録」というのは、日本でいう公証役場での文書の公証と似ていると思います。政府のお墨付きはもらえますが、誰が、どのような商標を登録したかを集約した情報ではないわけです。実際に紛争になると、お互いが登録証を出してきて、どちらの登録が先かが争点になります。

高岡 現在、登録法で登録している商標でも、新商標法成立後に知財庁に対して登録を申請しない限り、権利は失われます。

甲斐 新商標法の施行後は、決められた期間内に登録を申請する必要がありますね。では現在、まだ登録法に基づく登録をしていない企業は、新商標法の登録が始まるまで待つべきでしょうか。

高岡 現在の登録法に基づいて、Registration Offi ceで登録することをおすすめします。ミャンマー商標法の基本的な考え方としては、使用している商標を保護する(使用主義)なのですが、「登録している」=「使用している」という推定が働くと思われます。一度登録をすれば、少なくとも日時については前述した判断となるはずです。

甲斐 ほかにも日本企業として準備しておくことはあるでしょうか。

高岡 自社の商標について、侵害の状況を調査しておくことも有効だと思います。自社の模倣品が市場で販売されているケースもありますし、また、Registration Offi ceでは商標の真の権利者かどうかは審査しませんので、外国企業の著名な商標を第三者が「自分の商標だ」としてRegistration Offi ceで登録し、新聞広告まで出しているケースもあるわけです。現在、自社の商標に対して、侵害しそうな相手がわかっていれば、もし相手がその商標を新商標法の下で登録しそうな場合、相手方の登録申請状況を調査し、異議申し立てや無効を主張することができます。

甲斐 新商標法でも商標を確保したい場合は、新商標法に基づいて登録を申請すべきですが、具体的にいつ、どのような資料を添えて申請すべきかは明確ではないですよね。

高岡 はい。商標法を具体化する規則を現在策定中です。規則については、ジュネーブに本部を置くWIPO(世界知的所有権機関)の支援も受けながら、現在ミャンマー教育省知財局スタッフが検討を行っています。国際的に見て遜色のない制度とするとともに、初めて商標の出願や審査を行うミャンマー側にとっても適切に機能する制度とすることが重要だと思っており、私の方からも日本の実務や経験を基に、教育省の担当者にアドバイスをしています。


高岡裕美(たかおか ひろみ)
ミャンマー教育省・JICA知的財産行政アドバイザー。京都大学薬学部、英国Warwick Business School MBA 卒業。日本特許庁で医薬品・化粧品等の特許審査・審判、英国王立国際問題研究所留学、品質管理室室長を経て2018年3月より現職。


甲斐史朗(かい ふみあき)
TMI 総合法律事務所リージョナル・パートナー(ミャンマー担当) 。日本国弁護士。早稲田大学政治経済学部政治学科、ロンドン大学LLM 卒業。2015 年1 月よりヤンゴンオフィス駐在。