【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2017年7月号>エデングループ チッ・カイン氏

今回のテーマ創業から20年余で国内屈指の財閥に育てた経営者

チッ・カイン氏 [Chit Khine]

エデングループ 会長
1948年生まれ。ヤンゴン大学卒業後、エネルギー省入省。退官後に、エデングループを設立し、建設事業に進出。以後、鉱山開発、レストラン、ホテル、石油ガス、金融、農業の各分野で多角事業を展開。特に農業分野では政府から依頼され、ミャンマー農業公社(MAPCO)の創設に尽力、理事会会長職を務める。近年はグループの国際化を図っており、日本関係では、りそなグループ、丸紅、三井物産、ダイワロイヤルなどと提携。

グループ銀行がりそなグループと提携
りそなが持つ日本企業のネットワークを使い日緬の中小企業を結びつける役割を担う

建設・農業から金融・観光まで事業の多角化に邁進

永杉 本日はミャンマー大手財閥の一つ、エデン・グループのチッ・カイン会長にお話を伺います。まず、エデン・グループは建設、金融、ホテル、農業など様々な分野でビジネスを展開されています。

チッ・カイン 本格的な事業を立ち上げたのは1990年で、建設会社を設立しました。2000年にはホテル事業とコークスの開発事業を展開し、2009年には農業分野の事業も手掛けるようになりました。銀行を創って金融サービスに進出したのは2010年のことで、同じ年にDENKOというガソリンスタンドの経営も始めました。

永杉 多方面にわたる事業を展開されるようになったきっかけについてお話しください。また、資金調達はどのようにされたのでしょうか。

チッ・カイン 建設分野についてはインフラが未整備であったことや、この分野に多くの知人がいたことがきっかけです。農業分野に進出したのは、ミャンマーは農業人口の比重が大きく、少しでも社会に貢献できればと思ったことが要因と言えるでしょう。銀行を設立したのは、経済発展には金融の果たす役割が不可欠だと考えたからです。
資金は建築分野で20年ほどかけて築いた資産を元にしていますが、自己資金だけでは多角的な経営は難しいので、金融機関からの融資も合わせて調達しました。

永杉 5年近く前にヤンゴンを初めて訪れた際、御社が運営するシグネチャーファインダイニングやフジコーヒーハウスなど、先進的な飲食店を見て驚きました。優れた店舗を運営するために心がけているのはどのような点でしょうか。

チッ・カイン 現在では社内でビジョンやミッションを共有することは当然ですが、開業当時はそのような考え方は一般的ではありませんでした。そこで私は「クオリティを高めるために妥協はしない」という意識を浸透させ、その上で、経営的にも成功することを目標として運営してきました。さらに私自身、元々飲食やホテル業に興味があったので、お客様を満足させたいという思いが、よい結果につながったのかもしれません。

改革に拙速は禁物 見守りたい新政権の施策

永杉 ところでミャンマーの経済ですが、近年、貿易赤字の拡大やインフレ率が高くなるなどの心配も出てきています。経済状況についてはどのようにお考えでしょうか。

チッ・カイン インフレには軍事政権のときから悩まされていましたが、民政移管後はおおむね一桁台に落ち着いています。現政権は情報開示と賄賂撲滅を目標にして政策の改善を図っています。誕生してからまだ1年余りしか経っていないのですから、長い目で見守る必要があると思います。

永杉 現政権下で経済活動を進めるにあたり、行政手続きの面で何か変化はあったのでしょうか。エデン・グループの総帥として感じられていることをお聞かせください。

チッ・カイン 現政権は、政府関係のプロジェクトを発注する際、入札参加資格の基準を設定すると同時に、公平性を保つため、さまざまな企業に門戸を開いています。この方法だと賄賂を防ぐことができます。応札資格の基準や条件を設定する作業などでプロジェクトのスピードは落ちるでしょうが、この動きは大切にしたいと思います。

地理的経済環境を利用してアセアン経済統合に対応

永杉 外国企業からは電力不足などインフラの脆弱性を指摘する声や、法整備についての対策を求める声があがっています。こうした投資環境の問題については、どうお考えでしょうか。

チッ・カイン 投資環境の整備については法整備も含め、ミャンマー商工会議所連盟(UMFCCI)が民間企業の声をすくい上げて、計画・財務、経済・貿易、農業・畜水産・灌漑の3省と緊密な連絡を取り合い、改善策を講じています。今後、投資環境は確実に改善されていくと思いますので、今しばらくご辛抱ください。

永杉 アセアン域内経済統合に向けて動き出していますが、エデン・グループとしては今後どのように対応していかれるのでしょうか。

チッ・カイン アセアン域内経済統合の動きは、脅威でもあり、チャンスでもあると思っています。サッカーの試合で言えば、ホームとアウェイの関係です。ホームチームとして努力すれば、弱点を利点に変えることができます。そのためには準備が必要です。我々も国際的な企業グループとなるため、様々な経験を積まなければなりません。そのためにホテル事業では、ヒルトンと提携して国際水準のマネージメント・システムを導入しています。ガソリンスタンド事業では、フランスの石油会社トタルと提携するため、認可を申請中です。外資との提携は必要なら積極的に進めますし、株式の公開もそれが理にかなえば行います。幸い、ミャンマーは地理的経済環境が恵まれています。経済統合のチャンスを活かして市場を広げて行きたいと考えています。

中小企業を育成しミャンマーと日本の架け橋に

永杉 エデン・グループのミャンマー・エイペックス銀行は、日本の金融機関であるりそなグループと業務提携されています。その狙いは何でしょうか。また、日本の企業についてはどのように感じておられますか。

チッ・カイン りそなグループは日本の多くの中小企業に信頼されているので、業務提携を結びました。ミャンマーはまだまだ中小企業の基盤が弱いのが現実です。これからは日本のように中小企業を育成していくことが大切だと考えています。エデン・グループが日本とミャンマーの中小企業を結ぶ架け橋になれればミャンマー経済の成長を支えることに繋がると思っています。
日系企業は仕事が正確で、スタッフも誠実です。ミャンマーが見習うべきところが多々あります。大企業は決定プロセスに時間がかかりますが、基盤がしっかりしているので信頼感があります。中小企業は決断の早いところが魅力で、直接投資や業務提携は今後もっと進むものと期待しています。りそなグループも多くの中小企業の進出を支援してくれていますので、私たちも誠意をもって対応する所存です。

永杉 ミャンマーと日本は歴史的にも深い縁があります。今後の両国関係はどのように発展するとお考えですか。

チッ・カイン 日本とミャンマーは文化的にも近いと感じました。これからも日本とミャンマーの絆は益々深まると私は信じており、民間企業としてできることを進めていきたいと考えています。私はこの3月に日本経済新聞社に招かれ、日本の経営者の方々にブリーフィングを行いました。両国の経営者同士が関係を深めていけば、投資面でも技術面でも交流がさらに強まると思います。

永杉 ミャンマーと日本の絆ですか。実は、私も7月に東京商工会議所や福岡市など、各経済団体でのビジネス・セミナーを数回予定しています。本日チッ・カイン会長から伺ったお話をご紹介しながら、私も真のミャンマーと日本の橋渡し役ができればうれしい限りです。もちろんオフレコは決して話しません(笑)。
本日は貴重なお時間を賜り、誠にありがとうございました。

永杉 豊[NAGASUGI YUTAKA]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
ビジネス情報誌「MYANMAR JAPON BUSINESS」、「MJビジネスバンコク版」、ヤンゴン生活情報誌「ミャンジャポ!」など4誌の発行人。英語・緬語ビジネス情報誌「MYANMAR JAPON+plus」はミャンマー国際航空など3社の機内誌としても有名。日本ブランドの展示・販売プロジェクト「The JAPAN BRAND」ではTV番組を持つ。ミャンマーの政財界や日本政府要人に豊富な人脈を持ち、ビジネス支援や投資アドバイスも務める。 一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員、WAOJE(旧和僑会)ヤンゴン代表。