【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2017年3月号>ミャンマー計画・財務大臣 チョー・ウィン氏

今回のテーマミャンマー経済をさらに発展させるために必要なものとは

チョー・ウィン 氏[Kyaw Win]

ミャンマー連邦共和国 計画・財務大臣
1948年生まれ、エーヤワディー管区ラブッタ出身。ヤンゴン経済大学の前身となるヤンゴン・ インスティチュート・オブ・エコノミクスを卒業。地方議会秘書、ビジネスコンサルタントなどを経て、2015年の総選挙に国民民主連盟(NLD)から出馬。当選し連邦議会入りする。新政権発足にともない、2016年3月より現職。

日本が工業化に成功した最大の要因は〝改善〟だと思います。
ミャンマーでも全面的な〝改善〟が必要です

経済発展に不可欠な金融改革投資環境を整備する

永杉 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。まずはミャンマー経済についてお聞きしたいのですが、海外からの投資で発展する一方で、貿易赤字やインフレ率の高止まりなど懸念材料もあります。ミャンマー経済の現状と課題について、ご見解をお聞かせください。

チョー・ウィン ミャンマー経済が発展する一方で懸念材料があるのは、ご指摘の通りです。ただ貿易赤字とインフレ率の高騰は、分けて考える必要があります。輸出額減少の主な原因は、石油と天然ガスの価格下落、木材の輸出量減少、農業製品の供給不安定などが考えられます。しかし、米国によるミャンマーへの経済制裁が全面的に解除されたので、じきに輸出額は回復するでしょう。
一方、インフレ率は高い水準で推移しています。インフレは需要と供給の不均衡により起こりますが、人件費の上昇とドル高が原因です。貿易政策や財政政策などを全面的に見直すことで、ドル高は徐々に改善されてきています。投資が増えることで貿易赤字もインフレ率も解決し、経済発展がさらに加速すると信じています。

永杉 それには、昨年11月に発表された「投資政策」も重要になると思いますが、具体的にはどのように実行していくのでしょうか?

チョー・ウィン 投資政策は「農業関連」「技術移転・国内生産に貢献する投資」「中小企業振興支援事業」など8つの指針からなりますが、それを実行に移すには、金融制度改革が不可欠です。ミャンマーでは、国民が受けられる金融サービスが限られています。国の発展のためには、国民がきちんとした金融サービスを利用できて、金融セクターの開発、財務の安定、ファイナンシャルリテラシーの向上、中小企業や農家、低所得者向けの融資などを推し進めることが重要です。財政の安定化や金融リテラシーを向上させるため、「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)ロードマップ」の作成、「金融セクター発展プロジェクト」などの計画を実行していきます。また、銀行だけでなく保険分野の発展のための計画も立てて実行していく予定です。

永杉 金融ももちろんですが、外資系企業からは、電力不足をはじめとするインフラの脆弱さや法整備についての対策を求める声が上がっています。

チョー・ウィン もちろん承知しております。投資環境の整備については、外資系企業にとっての利便性を高めることが重要です。そのためにも、各々の課題ごとに専門家たちを招聘し、検討しながら順次解決していきます。

ASEANの経済統合で域内の調達がしやすく

永杉 東南アジア諸国連合(ASEAN)に加盟する10か国によるASEAN 経済共同体(AEC)が2015年末に発足してから経済統合が進められていますが、ミャンマー経済に与える影響についてどうお考えですか。

チョー・ウィン 他国の金融機関との合弁が進み、お互いにとってメリットになると期待しています。ミャンマーの金融機関が他国より遅れていることは事実です。合弁事業などで他国から技術やサービスなどを導入することで、ミャンマーの金融サービスは改善されるはずです。
ASEAN の経済統合が進むと、市場競争が激しくなり、ミャンマー企業は製品品質の向上が不可欠になります。それに人材育成やインフラ開発も重要になるでしょう。
また、経済統合により製品、サービス、資金が流動化します。新しい市場にアクセスしやすくなりますし、サプライチェーンについても、新しいルートを確保できるようになるでしょう。

永杉 ASEAN域内での調達がしやすくなることは、特に製造業にとっては喜ばしいことですね。

昨年の訪日で感じた日本人の勤勉さ

永杉 製造業に限らず、多くの日本企業がミャンマーに関心を持っています。日本企業にとって、どのような産業がミャンマーで有望だとお考えですか。

チョー・ウィン 全分野で日本の協力を期待していますが、通信や金融、それに現在ヤンゴン管区政府が進めているヤンゴン発展開発計画のようなプロジェクトへの投資を期待しています。また、農業、電気、水産、インフラへの投資も歓迎です。
三菱商事、丸紅、住友商事、国際協力機構(JICA)が49%を出資しているティラワ経済特別区(SEZ)についても、さらなる日系企業の投資を期待していますし、私としては、日緬企業による合弁も期待しています。

永杉 非常に多岐にわたっていますが、日本企業がほかの外国企業と比べて優れている点はどのようなところでしょうか。

チョー・ウィン 品質管理と環境技術だと思います。

永杉 日本では、高度経済成長期の1970年代頃から公害が社会問題になりましたが、技術力を高め克服してきたという歴史があります。日本にはそのノウハウが蓄積されています。チョー大臣は昨年11月に訪日されており、私もご挨拶させて頂きましたが、日本の印象はいかがでしたか。

チョー・ウィン 永杉さんとは様々なところでお会いしましたね(笑)。日本へ行って最初に気づいた点は、日本人は皆勤勉で、努力家であるということです。第二次世界大戦での敗戦後、日本人がそのような精神で努力した結果、現在の日本になったことは疑いないでしょう。特に地震が多くてもそれに耐えられる建築技術、電力技術、生産技術などは、ミャンマーにとっても必要なものだと思います。日本が工業化に成功した主な要因は、“改善”だと思います。ミャンマーでも全面的に“改善”が必要です。

日本企業には人材育成も期待

永杉 日本がぜひそのお手伝いをできれば幸いです。ミャンマーと日本との関係は、歴史的にとても縁が深いものがあります。大臣は、今後の日緬関係についてどのようにお考えですか。

チョー・ウィン ミャンマーは日本を、積年の良いパートナーだと考えています。経済だけではなく、文化をはじめとする他分野でも日本と協力していきたいですね。そして国と国のみならず、国民もお互いに関係を深くしていくことが重要です。
ミャンマーには多くの労働者がいます。そして、海外で働いているミャンマー人もいますが、それらを合わせたらかなりの数にのぼります。そのたくさんの人材を日本でさらに育成していただければ、ミャンマーと日本の関係はもっと深くなるのではないかと思います。

永杉 本日は公務ご多忙の折、貴重なお話を賜りありがとうございました。高度経済成長するミャンマー、そしてスー・チー政権の重要閣僚として、これからもミャンマー国民のためにご尽力ください。

永杉 豊[NAGASUGI YUTAKA]

MYANMAR JAPON CO., LTD. CEO
MYANMAR JAPON および英語・緬語情報誌MYANMAR JAPON +plus 発行人。日緬ビジネスに精通する経済ジャーナリストとして、ミャンマー政府の主要閣僚や来緬した日本の政府要人などと誌面で対談している。独自取材による多彩な情報を多視点で俯瞰、ミャンマーのビジネス支援や投資アドバイスも務める。ヤンゴン和僑会代表、一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員。