【TOP対談】ミャンマーの先輩に問う!

MYANMAR JAPON代表の永杉が日本・ミャンマーの第一線で活躍するリーダーと対談し、"現代ミャンマー"の実相に迫ります。

<2015年11月号>ミャンマー連邦共和国 科学技術大臣 コ・コ・ウー 氏

今回のテーマ:ミャンマー科学技術の向上へ

ミャンマー連邦共和国 科学技術大臣
1962年、マンダレー管区モゴック生まれ。大阪大学に留学し、博士号(工学)を取得。ヤンゴン大学などで講師を務めたのち、2000年に科学技術省に入省したテクノクラート。2011年に科学技術副大臣就任、2012年から大臣を務める。学術論文を多数執筆している。

宇宙開発で日本と協力 研究センター設立へ

永杉 本日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます。先日、野口総一宇宙飛行士がミャンマーを訪れ、ヤンゴン工科大学で講演されました。私も取材させて頂きましたが、科学技術省は宇宙工学にも力を入れているのですか。

コ・コ・ウー 野口宇宙飛行士が来緬の際、夕食にお招きしました。素晴らしい方ですね。マンダレー管区メッティーラのミャンマー航空宇宙大学に加え、ネピドーとヤンゴンの工科大学で講演して頂きました。現在、メッティーラに宇宙研究センターを作る計画があります。日本政府の支援を受け、東京大学とヤンゴン工科大は、総合的な防災システム設立の準備を進めています。また、科学技術省で(地図などのデータを統一的に管理して防災に役立てる)国土空間データ基盤(NSDI)の整備を進めることで、日本に援助を提案しています。宇宙研究に必要な法律も起草しています。
阪大で核融合を研究 実務派官僚から大臣へ

永杉 大阪大学に留学していたとお聞きしています。何を勉強されたのですか。

コ・コ・ウー 原子力工学です。高橋亮人教授のもとで核融合について研究していました。1999年にミャンマーに帰国した後は、ヤンゴン大学で物理学の講師として教鞭をとり、2000年に科学技術省入省後は、放射線の安全にかかわる仕事をしていました。
科学技術省には、原子力関連の安全性を担当する部署があり、エックス線検査機器や放射性物質の輸入などの実務のほか、国際原子力機関(IAEA)との窓口役という役割もあります。また、放射線を使ってコメの品種改良をするなどの研究も行っています。

永杉 ミャンマーに原子力発電所を作る考えはあるのですか。

コ・コ・ウー それは少し難しいですね。専門の技術者が足りないことと、費用が高いことが問題です。ただ、原子力の安全利用や安全保障について環境を整えることは必要ですので、原子力安全法案を国会に提出中です。

工科大学を所管、技術者育成の柱
 科学技術省は、生命科学や原子力など各種の研究を行う一方で、技術系教育を所管している。33校の工科大学などを傘下に持ち、高度な技術を持つ人材を育成している。その中でも、ヤンゴン工科大学はトップクラスだ。同大などミャンマーのトップ校には女子学生が多いのが特徴。コ・コ・ウー大臣も「大阪大学の研究室は男ばかりだったのに」と話すほど、日本の理系学部とは対照的だ。
国際協力機構(JICA)は、工学教育のカリキュラム編成を支援。土木やIT、電気工学など6つの教科を拡充する計画だ。ヤンゴン工科大では、土木と防災に関する国際シンポジウムも開かれ、海外の研究者や民間企業との交流も拡大しつつある。

知的財産法を国会提出 今年中に成立見通し

永杉 海外の企業がミャンマーでビジネスを進めるにあたり直面する問題のひとつに、特許権や著作権などの知的財産権の問題があります。発明と特許がますます重要になる21世紀は、権利を保護し産業界を健全に発展させることが必須条件だと思います。科学技術省は知的財産権についても担当していますね。

コ・コ・ウー はい。現在4つの知的財産権に関する法案を国会に提出しており、今年中に成立する見通しです。ご指摘の通り知的財産権の重要性が高まる中、昨年科学技術省の特許関連部門を格上げしました。法案が通れば、知的財産庁として独立することになります。世界知的所有権機関(WIPO)や日本の特許庁の支援も受けています。特許庁の職員の方が今、科学技術省のアドバイザーとして勤務しています。その知的財産部門の局長は現在、日本で研修を受けています。関連部門の37人の職員は全員日本で研修を受けた経験があります。

永杉 一般的な質問で恐縮ですが、この法案が成立すれば、例えば海賊版DVDなどは取り締まられることになるのですか。

コ・コ・ウー そうです。ミャンマーや外国の文化や芸術作品を守るため、罰則も強化します。

技術の発展は国の礎 知的財産保護へ官庁設立

工学教育を拡充 日本と協力してレベル向上

永杉 科学技術省は、工科大学も管轄しています。研究や教育のレベルを引き上げるためには、どうしたら良いとお考えですか。

コ・コ・ウー ヤンゴン工科大とマンダレー工科大学は、日本の支援で工学教育を強化しています。12学科のうちの6学科を国際協力機構(JICA)の支援を得て充実させているところです。今後4~5年間で、日本の技術者200人以上が訪れ、学生を指導してもらう予定です。また、ミャンマー人の博士課程の学生40人を日本へ送り、研究させます。研究機器なども日本から支援してもらっています。ヤンゴン工科大やマンダレー工科大では、以前よりも設備がだいぶ充実しました。ミャンマーには33校の工科大学がありますが、そのほかの学校も科学技術省が施設を拡充しています。2011年と比べると、関連予算は大幅に増えています。こうした施設や設備を整えることで、研究のレベルアップを図ります。

永杉 ミャンマーには、学術分野ごとの研究者の学会活動があまりなかったと聞いています。民間企業との共同研究なども少なかったそうですね。そのような中で、先日ヤンゴン工科大が国際シンポジウムを開き、ミャンマー土木学会の設立を目指すことを発表しました。こうした動きについてどうお考えですか。

コ・コ・ウー 確かに、他の国では学会活動が盛んですが、ミャンマーではあまり行われていませんでした。ミャンマーの学会は、いろいろな分野に分かれて開催できるほどの規模ではありませんが、工学やコンピューターなど比較的大きな分野で行われています。先日は、コンピューター関係の展示会を民間企業と連携して、ヤンゴンのMICTパークで行いました。それでも、まだ特定の分野の学会や国際会議は少ないので、問題です。今回は土木の分野のみの国際会議を開いたということで、私としても応援しています。
IT技術者を育成 教育課程を延長

永杉 ミャンマーをITの開発拠点として活用しようという日本企業も出てきています。

コ・コ・ウー ITは国の発展のためにとても重要ですので、そのような動向は大歓迎です。何をするにも、ITが必要となる時代です。コンピューター大学や情報技術大学など、IT教育を行う大学は27校あり、技術者を養成しています。コンピューター大学は3年制でしたが、現在は4年制になり、その後5年制へとする制度改革を行いました。2020年には、2万人以上のIT技術者が必要になると予測されており、科学技術省としてはできる限り技術者を育成したいと思っています。

永杉 熱意のこもったお話をありがとうございます。科学技術は国の発展の礎です。ミャンマーの科学技術の重要性はさらに高まることでしょう。今後ますますのご活躍をお祈りいたします。。

MYANMAR JAPON CO., LTD. 代表
MYANMAR JAPON および英字情報誌MYANMAR JAPON+plus 発行人。ミャンマービジネスジャーナリストとして、ビジネス・経済分野から文化、芸術まで政府閣僚や官公庁公表資料、独自取材による多彩な情報を多視点で俯瞰、マーケティング・リサーチやビジネスマッチング、ミャンマー法人設立など幅広くミャンマービジネスの進出支援、投資アドバイスを務める。ヤンゴン和僑会代表、一般社団法人日本ミャンマー友好協会副会長、公益社団法人日本ニュービジネス協議会連合会特別委員。